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櫛野展正連載「アウトサイドの隣人たち」:「できること」を失った先に【5/5ページ】

 かつては全国を駆け抜け、地域を支え、創作にも情熱を燃やした齋藤さん。現在は、病と向き合い、静かに日々を送っている。彼の人生は、陸上選手としての輝かしい青春から、故郷の土を耕す農家、そして創作に打ち込んだ日々まで、様々な顔を持っていた。

 齋藤さんのように、かつて手先を器用に動かして創作活動に打ち込んでいたにもかかわらず、病によってそれが叶わなくなった人々に、文化芸術は何ができるのだろうか。高齢者に対する自立支援や重度化防止に関する取組は国をあげて推進されている。いっぽうで、予防に重点が置かれた取組からは、すでに要介護状態となり、顕著な改善が望みにくい高齢者が取り残されている可能性も否めない。そうした人たちに求められる支援とは、最期まで希望を持って生き続けられるためのものである。

 病によって創作や生活の自由が奪われるなかで、僕たちは、この「最期の希望」をいかに支えるか、そしてその人が生きてきた証、その存在そのものをどのように受け止め、いかにして社会で分かち合っていくべきなのか。齋藤さんの言葉は、重い問いを投げかけている。

──取材のあと、齋藤七海さんは2025年10月1日に永眠された。

編集部