現在、齋藤さんは60代から患っている糖尿病に加え、5年前に発覚した食道癌の闘病生活を送っている。人間ドックの胃カメラで発見された癌はステージ1だったが、食道の裏への転移を恐れ、食道をすべて摘出し、胃を持ち上げてつなぎ合わせた。しかし、2年後に食道の横にあるリンパ節に再発。様々な抗癌剤を2年かけて試し、放射線治療も行った。
癌の抗癌剤治療が始まった影響で、細かな作業が難しくなり、木彫り作品の制作もやめざるを得なくなった。以前は荷造りひもでカゴを編むような細かい作業もできていたが、それもいまでは難しい。そして、現在は口から物を食べることができず、外科手術で腹部から小腸に直接管を通す腸ろうを造設し、そこから1日12時間かけてラコールという栄養剤を補給する生活を送っている。
齋藤さん本人が「もう治療はしない」と望むため、現在は検査もせず、緩和ケアに切り替えている。1週間に2回看護師が訪問し、痰の吸引などのケアを行っている。月2回は宮地院長が往診に来て、診察やアドバイスをしてくれる。しかし、病は齋藤さんの心身を深く蝕んでいる。少し動くだけで熱が出て、すぐに疲れてしまう。話しているだけでも疲労を感じるほどだ。布団の中では、頭の中で詰将棋をしたりするなどの空想に耽ることもあるが、それも長くは続かないという。
「早く死にたいだけ」と漏らす齋藤さん。病気で飲んだり食べたりできないことが何より辛いのだという。CMでビールをうまそうに飲む姿など、食べ物ばかりが目に入ってしまうため、テレビを見るのはあまり好きではない。気分転換に妻とスーパーに行くこともあるが、そこでも食べるものばかりが目に入り、「何も楽しくない」と話す。また、妻が見ているテレビ番組の影響で俳句をつくり始め、娘が生成AIで添削してくれていたものの、それにも飽きてきたとのことだった。



















