包括的な感覚を持って対話し、思考し続けること
──先ほどSFについて触れていましたが、過去や現在の作品、エコロジーに関する視点でインスパイアされるアーティストやデザイナーはいますか?
アップリチャード 私はランド・アート運動のなかでも、より繊細な作品が好きです。地面を大きく掘り起こすようなアートではなく、作品そのもののメッセージが直接的なかたちで含まれていない、説教くさくないアーティストのほうが好きですね。
──例えば、ハミッシュ・フルトンやロジャー・アックリングのようなアーティストですか?
アップリチャード そうです。より詩的な側面ですね。
ガンパー 私の場合、恩師のエンツォ・マリが重要な存在です。彼は1960年代から活動を始め、生涯で500~600点もの作品を制作しました。それぞれがどのようにつくられたのか、工場で職人が何をしているのかなどを問いかけるものです。彼は、とてもシンプルな自動生産方法を使って、家庭でつくれる家具をデザインしました。本当に先見の明がある人で、共産主義者でもありました。そしてもちろん、バックミンスター・フラーやJ・B・ブランクのような人々もいます。
──おふたりは、様々な種類や規模の機関と仕事をされていますが、気候に関する話題がキュレーターやギャラリストとの会話でどのように取り上げられているか、経験を踏まえて教えていただけますか? 初めから議題に上がるものなのでしょうか?
アップリチャード こちらから話をすることが多いです。私の経験では、キュレーター自らその話題を持ち出すことはほとんどありません。
ガンパー 同感です。キュレーターが「壁を建てましょう」と言ういっぽうで、私は「いや、壁は建てません!」と言うことはあります。なぜいずれ壊してしまう壁を建てるのか? こういった問いについてはほとんど考えられていないと思います。
アップリチャード 昨今、美術館が展示のサイクルを長くして、年間の展示回数を減らしているのを目にしますが、これは財政が厳しいことの反映でもあります。しかし、それが結果的にエコロジカルな側面を持つことも事実です。
──アーティストがこういった問題を議題に上げることは、とても重要だと思います。アーティストができる非常に力強いアクションだなと。
ガンパー ただ、繰り返しになりますが、たぶんほとんどのアーティストはそれを議題にしないと思います。むしろ「自分のやりたい方法でやる」だけかもしれません。でも、包括的な感覚を持つ一部のアーティストがいれば、美術館でのやり方を本当に変えることができるんです。
──フランシスは、ロンドンで非常に気候意識の高いギャラリスト、ケイト・マクギャリーと仕事をされていますね。彼女と話した印象では、とても実務的でアーティストに問題を押し付けるようなことはしないようですが、どのような体験ですか?
アップリチャード そうですね。ケイトはとても知識が豊富で、アーティストと話す際には慎重に配慮してくれます。例えば、エコロジカルなアイデアや提案を紹介したり、梱包や輸送に関する情報を提供してくれたり。このような情報は本当に役に立ちますし、重要です。それはまた、知識や対話、そして思考についての情報でもあるんです。

The Curve, Barbican Centre, London, UK Installation view
あとがき
露骨でもなく押し付けがましくもない、彼らの気候問題に対する深く思慮深い視点に、感銘を受けた。誰もが非常に矛盾に満ちた複雑なシステムのなかで生き、働かなければならない。そして、「純粋」または「正しい」生活や働き方が、生態系の破壊や化石燃料の構造から完全に切り離されることはない。フランシスとマルティーノとの対話を通じて、まず第一に私たち自身が主体的に考える存在でなければならないことを再認識した。深く考え、アイデアを共有することで、アートの世界でもっとも破壊の少ない働き方を見つけることができる。その考え方は、彼らの仕事や生活のなかで簡潔かつ意味のある行動につながっていく。彼らの洞察から、我々は多くを学ぶことができるのではないだろうか。
*1──2023年2月中旬にニュージーランド北部を直撃した大型サイクロン「ガブリエル」。
*2──気候中立とは、人、企業、団体などが、日常生活や製造工程などの活動により排出する温室効果ガスを、その吸収量やその他の削減量を差し引いて総排出量を算出し、実質(ネット)ゼロにするという取り組み(参照=https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=4707)。