5月18日が「国際博物館の日」になったのは、1977年のこと。ICOM(国際博物館会議)第11回大会において、5月18日を「国際博物館の日」とすることが決議されたのだ。以降、美術館・博物館が広く市民にその存在と役割をアピールする日となっている。日本の博物館も、今年はコロナ禍により自粛する館が多かったものの、例年の5月18日は様々なイベントを開催している。
いっぽう、TikTokは昨年より美術館・博物館への訪問を楽しみにしていた人々はもちろん、普段アートに馴染みのない人々にも楽しんでもらうために「GoToアートプロジェクト」を推進。国内外の美術館や、アートイベントと連携し、これまでに11の日本語解説付きのオンラインミュージアムツアーを2020年10月から実施しており、日本では延べ25万人に視聴されるなど好評を博している。
この、GoToアートプロジェクトの好評を受け、TikTokは5月18日の「国際博物館の日」にグローバルプロジェクトとしてTikTok史上最長となる世界の美術館・博物館によるリレー生配信「#MuseumMoment」の開催を決定。フランスのオルセー美術館やヴェルサイユ宮殿、オランダのアムステルダム国立美術館、日本からは森美術館など、12ヶ国から計23の美術館・博物館が参加し、延べ224万人以上のユーザーが、自由なスタイルで世界の美術館・博物館を鑑賞することができた。
その一部を紹介しよう。
ヴェルサイユ宮殿〜豪華な宮殿そのものが美術館
1682年にフランス王、ルイ14世により建造されたヴェルサイユ宮殿は、世界一華麗な宮殿とも称される、フランスの絶対王政時代を象徴する場所。宮殿はもちろんのこと、ル・ノートルの設計した庭園や離宮のプチ・トリアノンなど見逃せない場所が多い。
TikTokでは、その豪華な宮殿や庭園などを音楽に載せて紹介している。
@chateauversailles Avant restauration de l’appartement de Madame Du Barry #tiktokacademie #TikTokCultureFestival #culturetiktok #pourtoi #foryou #palace #workinprogress
♬ Royal-style string quartet with dignity and dignity - SOUND BANK
ヴェルサイユ宮殿のTikTok LIVEは、ディアナの間からスタート。
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神話画が描かれた天井画や室内装飾、当時のフランス、イタリアで大人気の彫刻家兼建築家、そして画家のロレンツォ・ベルリーニによるルイ14世の胸像を紹介。ヴェルサイユ宮殿の学芸員が各部屋ごとに意匠が異なることなどを軽妙な語り口で解説していく。
その後、舞踏会が行われていたマルスの間、ルイ14世の寝室として使用されていたメルクリウスの間、戦争の間などを丁寧に紹介。豪華な室内装飾や調度品が画面に映し出されると、世界各国の視聴者が、称賛のコメントを寄せていた。
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そして、ヴェルサイユ宮殿のなかでも一番の人気を誇る回廊、鏡の間へ。長さ約75メートル、幅10メートル、天井高12メートルの空間は、300枚以上の鏡が壁に張り込まれ、窓から差し込む陽光をきらきらと反射させている。ここでも頻繁に舞踏会が開催されていた。
TikTok LIVEでは、斜めからのアングルで鏡の間を紹介したり、天井画も積極的に紹介したりするなど、普段はなかなか見ることができない場面を紹介。実際に現地を訪れて見ているかのような気分をユーザーは体験できたようだ。
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このほかにも、窓越しに見える水庭や、ルイ14世が王妃マリー・テレーズのためにつくった王妃の寝室などを紹介した。
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フランスではこのTikTok LIVE「#MuseumMoment」が開催された翌日の5月19日から美術館や文化施設が予約制ながら再オープン。宮殿を案内するスタッフも再開館できることの喜びなど、ユーザの共感を呼ぶ“脱線”もまじったトークとなった。
アムステルダム国立美術館〜珠玉のオランダ絵画をレポート
オランダ最大の美術館のひとつ、アムステルダム国立美術館は、画家レンブラントやフェルメール、ゴッホなど同国出身の画家たちの作品のほか、12〜20世紀の様々なコレクションを持つことで知られている。TikTokのアカウントもフェルメールの作品など著名なものを紹介し、10万人近いフォロワーを集めている。
@rijksmuseum First impressions are everything! What’s the first thing that catches your eye? 👀 #rijksmuseum #amsterdam #artclass #artdetails #museum #museummoment
♬ origineel geluid - Rijksmuseum
TikTok LIVEでは、約30分の短いLIVE配信であったものの、同館のツアーガイドがオランダ絵画のコレクションをテンポよく紹介。18世紀前半に活躍した女性画家、ラッヘル・ライスの静物画のほか、海の絵で知られるウィレム・ファン・デ・ヴェルデ2世の作品など、日本ではあまり知られていない画家についても紹介を行い、オランダ絵画の奥深さをアピールした。
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またオランダを代表する画家のひとり、レンブラントについては《ユダヤの花嫁》や、《聖パウロに扮した自画像》を紹介。スマートフォン越しに筆触を認めることができるほどズームアップし、世界中のユーザに彼の卓越した技巧をアピールした。
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ちなみに、レンブラントの作品のなかでもっとも有名な《夜警》の前には作品研究で使用するための重機が配置されていた。普段はあまり見ることができない美術館の舞台裏を垣間見ることができるのもTikTok LIVEの醍醐味だ。
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オルセー美術館〜印象派の宝庫
オルセー美術館は、今年の4月からTikTokアカウントを開設。印象派の有名作品を軽やかな音楽に乗せて紹介する投稿が人気を博している。
@museeorsay Reconnaissez-vous ces tableaux ? Dites le en commentaire 👉 #LeMondedApres #tiktokacademie #lumieresur #museedorsay
♬ Lazy Sunday - Official Sound Studio
TikTok LIVEは、中央のプロムナードからスタート。ドーム状のガラス天井から陽光が降り注ぐ空間は、かつて駅として使用されていたもの。セーヌ川も見えるフォトスポットの紹介など、館内の開設も合間に挟みながら、印象派の主要な作品を紹介していく。
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印象派の作品を解説に入る前に、まずオルセースタッフが紹介したのは、1863年に描かれたエドゥアール・マネの《草上の昼食》。当時、裸体の女性を描くことは神話画や歴史画など裸体である「理由」がない限りタブーであるとされていた。マネはこの作品をサロンに出品したが、不道徳を理由に落選。しかし、後世の芸術家たちに大きな影響を与えた。
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マネの《草上の昼食》に影響を受けたのが、印象派の代表的画家、クロード・モネ。彼は、マネの作品と同じタイトルの《草上の昼食》を1865年に描き、発表した。オルセー美術館ではマネとモネ、ふたつの《草上の昼食》が向かい合うように配置されており、カメラをゆっくりと回転させユーザに2点の絵画の位置関係をわかりやすく説明していた。
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モネの《草上の昼食》は、フォンテンヌブローの森を舞台に描かれたものだ。若くして亡くなった画家仲間のフレデリック・バジールや妻となるカミーユ、尊敬する先輩画家クールベなどがモデルとして描きこまれていると言われている。
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そして、オルセー美術館の人気作品のひとつオーギュスト・ルノワールの《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》へ。のんびりとしたモンマルトルの休日の風景が描かれた作品に「マスクもソーシャルディスタンスもない」と、スタッフは冗談を交えて解説。ユーザーに美術をより身近に感じてもらおうとする心遣いが見られた。
このほか、ドガのリアリティあふれる人物画やセザンヌの静物画や、スーラの点描画など、印象派の枠を抜け出た画家たちの作品も紹介し、オルセー美術館の魅力をしっかりと伝えていた。
森美術館〜日本から発信するアートの力
日本から「#MuseumMoment」に参加したのは森美術館。4月にアカウントを開設し、現在は開催中の展覧会「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」に登場するアーティストのインタビューなどを掲載している。
@moriartmuseum 森美術館「アナザーエナジー展」アーティストインタビュー 三島喜美代① Artist Interviews Mishima Kimiyo 1 ##moriartmuseum ##森美術館 ##アナザーエナジー展 ##anotherenergymam ##tiktok ##CapCut
♬ オリジナル楽曲 - 森美術館 Mori Art Museum - Mori Art Museum 森美術館
今回のTikTok LIVEは、館長の片岡真実が自らカメラを持って、展示作品とアーティストを解説した。
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アナザーエナジー展は、世界各地で活動する71歳から105歳までの16名の女性アーティストに焦点を当てた展覧会。全員が50年以上のキャリアを持っており、美術館やマーケ―トの価値観にとらわれることなく、他者との比較によってではなく、一貫して自らの芸術的な課題や芸術の社会的意義を探求してきた。彼女たちの独自の創作活動を続けてきたアーティストの姿勢と作品が、見る人に大きなヒントを与える意欲的な試みだ。
今回、展覧会のポスターなどで作品が取り上げられているミリアム・カーンはスイス出身のアーティスト。鮮やかな油彩や力強いドローイングで、差別や暴力などの社会問題や、戦争、ユダヤ人としてのアイデンティティに迫る作品を描いてきた作家だ。
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ちなみに片岡館長は、この《無題》を展覧会のキービジュアルに選んだ理由はこのウェーブヘアーが、ある種の電気的な力を感じさせるから、とのこと。
そして、日本からは、宮本和子と三島喜美代が展覧会に参加。緻密に張り巡らせた糸を使用した宮本の作品は、作品を見る角度によって見え方が大きく異なってくる。写真と異なり、いろいろな角度から作品を捉えられるLIVE配信は、作品鑑賞と非常に相性が良いようだ。
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また、来年で90歳になる三島の作品は、1970年代から新聞紙やチラシなどをモチーフにしたセラミック製の立体作品を手がけており、近年、ますます注目が高まっている。
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「コロナ禍により海外からの来館が難しい状況下、国や時差を超えて、世界の美術館がリレー形式のLIVEで連携したTikTokの試みは森美術館にとって貴重な経験になりました。今回、#MuseumMomentを通じて得た世界のTikTokユーザーとのつながりを大切に、森美術館では今後もTikTok LIVEなどで積極的に展覧会を発信し、アーティストや作品の魅力をお届けしてまいります」と片岡館長は語っている。
世界でも例を見ない豪華な美術館が参加したこのオンラインイベント、#MuseumMomentは、19時間で延べ224万以上の人々に視聴された。
国内外の美術館は、TwitterやInstagramはもちろんのこと、TikTokを活用し、新しいファンを獲得しようとしており、現在も続々とTikTokのアカウントを開設し、それぞれの方法で発信を行っている。「#MuseumMoment」のイベントをきっかけに、フォロワーが増えた美術館も多いようだ。
今後、様々な美術館のTikTokでの発信により、その美術館への共感の高まりだけでなく、美術そのものに興味を持つユーザも増えていくはずだ。美術の敷居を下げ、ファン層を広げる美術館のTikTok活用、よりいっそうの盛り上がりに期待する。