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1日限りの展覧会「Someone’s public and private / Something’s public and private」を終えて。シリーズ:蓮沼執太+松井茂 キャッチボール(11)

作曲の手法を軸とした作品制作や、出自の異なる音楽家からなるアンサンブル「蓮沼執太フィル」などの活動を展開する蓮沼執太と、詩人でメディア研究者の松井茂。全14回のシリーズ「蓮沼執太+松井茂 キャッチボール」では現在、ニューヨークが拠点の蓮沼と、岐阜を拠点とする松井の往復書簡をお届けする。第11回では、蓮沼が5月2日、ニューヨークのトンプキンス・スクエア・パークで行った1日限りの展覧会「Someone’s public and private / Something’s public and private」を振り返る。毎週土・日更新。

文=蓮沼執太 撮影=大野雅人

「Someone’s public and private / Something’s public and private」の様子 撮影=大野雅人

 こちらの時間でちょうど昨日5月2日、ニューヨークのイースト・ヴィレッジにある公園、トンプキンス・スクエア・パークでの1日限りの展覧会「Someone’s public and private / Something’s public and private」が無事に終了しました。前夜までの天気予報は雨マークだったので不安だったのですが、当日は朝から天気に恵まれて、晴れ晴れとした心地よい環境の中でプロジェクトが進行できました。

 プロジェクトの概要はこちらに記述してあります。

 まずは訪れてくれた友人、知人たちの声を。アーティストのマリオ・ナヴァロが立ち寄ってくれて、「この公園は10年前はホームレスたちの溜まり場で、この数年で公園を訪れる人も変わってクリーンになった」けど、ベンチに座って話をしているジャンキー風貌の人たちを見ながら「“This is New York”でエキサイティングだ、こういう色々な人がいるところが面白いんだよね」と公園の面白さを話してくれました。

 また、ジャパン・ソサエティーのパフォーミングアーツ部門のアーティスティック・ディレクター塩谷陽子さんは1974年1988年にこの公園で起こった暴動「トンプキンススクエア暴動」に触れ、当時は連日報道され非常に恐怖だったという公園が持つ歴史の話を。福岡伸一さんはボトルや水という作品を構成しているマテリアル、また公園の地形にも注目されていました。ASAKUSAの大坂紘一郎さんは、ここ数日気温も下がっていたタイミングでこの日が晴天だったので、人が外に出たいと思う気持ちや公園に足を運ぼうとする人々の感情、シチュエーションについて言及してくれました。

 このプロジェクトを12時から16時の4時間、参加してくれる人々とコミュニケーションを取りながら、状況を見守っていました。ただ通りかかっただけの人々の反応が興味深かったです。指示が記載されたハンドアウトを渡して、説明をしていきます。行為を説明し、相手が反応して質問を返してくる。好奇心を持って作品に入っていく姿勢がニューヨークの人々っぽいとも言えるのですが、短いやり取りの中でこのプロジェクトの意味、音楽家としての作品の意味などを説明していくことで、通行人が作品の中に入っていく流れを見ることができたのも収穫でした。

 このプロジェクトはいくつかの方法で記録をとっていました。ボトルの移動位置情報をドローイングで、音はフィールド・レコーディング、写真、映像というメディウムです。音はまだ聴けてないのですが(4時間かかるので)、写真が面白かったです。撮影をしていただいたアーティストの大野雅人さんには、ボトルをメインするというよりも、起こった状況をそのまま撮影してほしいとお願いしました。プロジェクトがスタートする段階では決まった配置でボトルが並んでいたので、その存在感があるのですが、時間が経つにつれて観客によってボトルは移動されます。

 そうなると水の入ったワインボトルは光を通すので、公園に溶けていくように存在感がなくなっていきます。写真に撮ろうとしても、風景に馴染んでいきます。僕自身も最初はボトルの行方や作品マテリアルの存在を気にしているわけですが、それらが希薄になっていけばいくほど、公園という場所性、辺りのシチュエーション、そしてサウンドスケープを把握していこうとする意識の変化が興味深かったです。

 まだ終わってまもない状況なので、こんな簡単な感想しか書けないのですが、これからこのプロジェクトをゆっくり検証していきたいと思います。

 おとといレコーディングに参加していただいたサトミさんのバンド Deerhoof 「Chandelier Searchlight」を聴きながら。

5月3日 ニューヨーク・ブルックリンの自宅より
蓮沼執太

編集部

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