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「つくり手側までもが欲望に忠実に動くと、アートがアートである意味がなくなってくる」。座談会:荒木慎也×山口つばさ×梅津庸一

雑誌『美術手帖』2020年12月号「絵画のみかた」特集(監修=梅津庸一)より、絵画と美術教育をめぐる座談会を公開。美術界を描いた山口つばさの人気マンガ『ブルーピリオド』のTVアニメーション放映にあわせて、本誌掲載の描き下ろしイラストと共に貴重な記事をアーカイブする。

構成=編集部

山口つばさ『ブルーピリオド』描き下ろしイラスト 大学のアトリエで制作する主人公・矢口八虎 © 山口つばさ/講談社

『美術手帖』2020年12月号「絵画のみかた」特集(監修=梅津庸一)から、荒木慎也、山口つばさ、梅津庸一による「絵画教育の課題と未来」をテーマにした座談会を公開。ともに美大や美術予備校で絵画を学んだ経験があり、現在は研究、漫画、現代美術と、異なる専門を持つ3名が、美大や美術予備校の教育が陥っている問題から、各々の仕事にまつわる話、作品の価値に関する議論まで、幅広く語る。

 TVアニメーション『ブルーピリオド』や「梅津庸一展 ポリネーター」(ワタリウム美術館)の開催にあわせて読んでほしい貴重な鼎談だ。

座談会 美大で何を学ぶか? 絵画教育の課題と未来

 現在活躍するアーティストの多くは美術大学で学んでいるが、教育機関の仕組みやあり方は、アートシーンにどう影響しているのだろうか?

 受験絵画の研究で知られる荒木慎也、美術界を描く人気マンガ『ブルーピリオド』を手がける山口つばさ、梅津の3人が現状と問題点を議論する。

藝大の問題

梅津 現在名前が知られている作家の大多数は美大、ひいては美術予備校を経ているので、絵画シーンが教育機関と地続きであるのは間違いないと思います。そこで今日は、美術教育の現状と課題、可能性についてお話ししたいです。まずバックグラウンドについて、お二人とも東京藝術大学出身ですよね。

荒木 私は多摩美術大学の油画専攻に現役入学しましたが、校風が合わず半年で辞めてしまいました。その後に藝大の油画専攻を目指して浪人しましたが、途中で絵を描くのが嫌になってしまい、結局2浪して芸術学科に入りました。藝大は楽しかったのですが、実技中心の大学のなかで理論系の芸術学科は居心地の悪さもあり、東京大学の大学院に進学して研究の道に進みました。

山口 私は藝大の油画専攻に現役入学したのですが、現役ゆえのとまどいもあり、私も描くのが嫌になってしまいました。それで自分が楽しいと思えることをやろうと、本格的にマンガを描き始めたんです。結果として、最後にきちんと描いた絵画作品は受験絵画になってしまいましたね。教授たちは高校生から見た「先生」とはだいぶギャップがありました。

梅津 その背景には、教授たちの好みに合わない作品を描いていると無視されてしまうという風潮があると思います。最近の藝大のプロモーション動画を見ると、教授陣が「ただ描けば良い」「絵画はひとりでに立ち上がるもの」といった抽象的なコメントをしていますが、それは芸術の本質を積極的に神秘化しているのだと思います。そういう雰囲気のなかでつくられたロジックのない絵画を支えているのは、ギャラリストたちの恣意的な評価と、そこに追随する美術館。継続的な作品発表すらままならない教授もたくさんいるのに、彼らについていける生徒だけが可愛がられて助手や常勤講師になる、という負のループができています。美術作品の価値は様式や表現方法の優劣だけでなく、いかに批評的なポイントを見出せるかによっても決まりますが、その制度の根幹であるはずの美大が悪いほうに作用してしまっていると思います。

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