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2019.6.4

ASSEMBLEが実践する都市再生とは? 藤村龍至評「アートが日常を変える 福原信三の美学 Granby Workshop」展

ASSEMBLE(アッセンブル)は、建築、アート、デザインの領域で活躍するアーティストらからなるコレクティブである。今年1月から今年3月にかけて、ASSEMBLEが参加するプロジェクト型の展覧会が東京・銀座の資生堂ギャラリーで開催された。本展は、資生堂ギャラリー100周年記念展として、同ギャラリーの創設者・福原信三の美学に共鳴する現代の複数のアーティストを招いて企画されたうちの第2弾。ASSEMBLEは、2015年にターナー賞を受賞した「グランビー・ワークショップ」の方法論を銀座で展開した。工房のような展示空間も注目された本展を通じ、建築家の藤村龍至が、アート、建築、社会の関わり方を考察する。

藤村龍至=文

展示風景 撮影=加藤健
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都市再生と関わるThe unknown craftsman

 2019年1月16日から3月17日まで、資生堂ギャラリーにて「アートが日常を変える 福原信三の美学 Granby Workshop: The Rules of Production Shinzo Fukuhara/ASSEMBLE, THE EUGENE Studio II」展が開催された。

 本展は「それを超えて美に参与する 福原信三の美学 Shinzo Fukuhara / ASSEMBLE, THE EUGENE Studio」展の続編として位置づけられ、イギリスの建築家集団ASSEMBLE(アッセンブル)のGranby Workshop(グランビー・ワークショップ)に焦点を当てた展示が行われた。会場を訪れると美しい工芸品と道具が会場全体にレイアウトされ、映像ではASSEMBLEのメンバーが益子を訪ね、工芸作家の手ほどきを受けながら自分たちのセンスを活かした工芸にチャレンジする、というドキュメントが展示された。

展示風景 撮影=加藤健

工業都市の地域再生

 Granby Workshopとはそもそも、イギリスの工業都市リバプールの郊外に位置するGranby Street(グランビー・ストリート)の地域再生のための取り組みである。数十年のあいだ、公共による整備が行われず放置されていた地域を住民グループが清掃し、草花の手入れ、ペインティング、キャンペーン運動などを始めた。

 ASSEMBLEも参加して、2011年には地域コミュニティが土地家屋のオーナーとなって空き家10戸を手ごろな価格の住宅に改装し、その改修に使用するタイルやつまみなどのプロダクトを地域の廃材を利用して制作した。制作物は外部にも販売され、収益を各リソースや設備、スタッフの教育に再投資することで持続する仕組みを構築した。これら一連のものづくりを通じて社会を再生させる仕組みが評価され、ASSEMBLEはターナー賞を受賞し世界的に注目されることとなる。
 

展示風景 撮影=加藤健

資生堂ギャラリーでの展示の文脈

 そのASSEMBLEがなぜ資生堂ギャラリーで展示を行うのだろうか。本展では約100年前のイギリスと益子、資生堂との歴史的なつながりが紹介される。柳宗悦や富本憲吉らとともに民藝運動に関わった濱田庄司は、1920年にバーナード・リーチの帰国に伴いイギリスに移り、コーンウォール州セント・アイヴスに日本の伝統的な登り窯を築窯しともに活動した。その後帰国し、益子で作陶を開始する。

 また、資生堂創業者の三男で、資生堂ギャラリーを開いた福原信三と交友のあったリーチの紹介により、同ギャラリーで陶芸家・富本憲吉の個展が実現。富本は資生堂の購買顧客向けの記念品として陶芸作品を制作するなど資生堂との協力関係が続いた。

 イギリス由来のアーツ・アンド・クラフツ運動を彷彿とさせるASSEMBLEが資生堂を通じて益子に出会い、交流することで100年前の交流の記憶が呼び起こされるのである。

展示風景 撮影=加藤健

デザイン・アート・課題解決

 ここで彼らの手法に着目してみよう。展示では6つの原則が示されている。このうち「偶然と即興を進んで受け入れることで2つとないプロダクトをつくる」「実験的プロセスを取り入れる」「しかし、そのかたちはシンプルでなければならない」「楽しむ心を忘れず、挑戦を恐れない」は、材料に廃材を混合させることで新鮮な色彩や模様を生むというそれまでの手法に加え、輪切りにされた型枠を組み合わせることで異なるかたちの器をつくることを可能にするといった、プロダクトデザイン的なアプローチで達成されていると読める。

 しかし彼らが評価されたのは、それらを「独創性を豊かに発揮し、ありふれた事物に新たな視線を注ぐ」というアート的なアプローチと、「地区の雇用と創作活動の促進をサポートする」という課題解決的なアプローチとの組み合わせをデザインしたことであろう。

会期中に実施されたワークショップの様子 撮影=加藤健

日本における批評性

 以上を概観したうえで本展の批評性を考察してみると、その論点は、イギリスにおいては建築家として具体的で構築的な地域との関わり方を示すことで商業主義へ傾倒するアートへの批判として解釈されたASSEMBLEが、日本においてはアートの持つものづくりの手触りや視覚的効果を提示することで、地域主義へ傾倒する建築への批判として読める点にあるのかもしれない。

 建築における地域との関わりは1960〜70年代の近代主義批判としての文脈主義に端を発し、具体的な地域再生との関わりへと展開してきた経緯がある。ASSEMBLEはロンドンにおける賃料の高騰を背景に工房をセルフビルドし、ピザを焼いて人を集め、持続可能な創作の拠点をつくることそのものを創作の対象とした。やがてクラフトの持っている多様性とアートの課題を像としてとらえ、伝える力を建築の持っている構築性や具体性と組み合わせることで、視覚芸術としてのアートと課題解決の方法論としてのアートを再統合して独特の表現を獲得した。

会期中に実施されたワークショップの様子 撮影=加藤健

都市再生と関わるThe Unknown Craftsman

 ASSEMBLEの試みは、イギリスにおけるアート、日本における地域再生やデザインがそれぞれ陥っていた硬直を鮮やかに解きほぐしたように映る。彼らの今回の益子訪問はロンドンやリバプールなどの大都市郊外での都市再生の現場で展開されてきた彼らの試みの、次の展開につながってほしいものである。かつてバーナード・リーチと柳宗悦の交流によってアーツ・アンド・クラフツ運動と民藝運動が共振し、欧米において『The Unknown Craftsman』(*1)の思想がモダニズムに影響を与えていったように、今回の展示が新たなイノベーションへと発展する転換点として後に浮かんでくることを期待したい。

*1――柳宗悦の民藝についてのエッセイや評論を、バーナード・リーチが翻訳・編集し、海外に向けて出版された書籍。1972年、講談社より刊行。

展示風景より。ワークショップの成果物も展示された 撮影=加藤健