荒木悠の新作展が資生堂ギャラリーで開催。「ニッポンノミヤゲ」と題された展覧会が示すものとは

国際的に活躍する映像作家、荒木悠の新作個展「荒木悠展:LE SOUVENIRS DU JAPON ニッポンノミヤゲ」が、東京・銀座の資生堂ギャラリーで開催される。会期は4月3日~6月23日。

展示風景より、《The Last Ball》(2019) 撮影=加藤健

 荒木悠は1985年山形市生まれ。2007年にワシントン大学サム・フォックス視覚芸術学部美術学科彫刻専攻を卒業し、10年に東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修士課程を修了した。

 13年には、スペイン・サンタンデールのボティン財団主催のタシタ・ディーン・ワークショップに参加。その後、17から18年にかけてはゲスト・レジデントとして、韓国・光州の国立アジア文化殿堂およびオランダ・アムステルダムのライクスアカデミーに滞在した。現在は東京を拠点に活動を行っている。

 世界各地での滞在制作を通して、文化の伝播と誤訳、その過程で生じる差異や類似などに着目し、社会・歴史を背景にした映像作品を制作している荒木。その作品は高く評価され、18年のロッテルダム国際映画祭ではTiger Awardを受賞した。また現在、キエフのピンチューク・アートセンターで開催中のFuture Generation Art Prizeの最終候補にもなっている。

 そんな荒木の新作個展が、東京・銀座の資生堂ギャラリーで開催される。本展を開催するにあたって、荒木は、日本が急速に近代化/西洋化を進めていた明治期に日本を訪れ、紀行文を残したフランス人作家、ピエール・ロティ(1850~1923)に着目。ロティの著作である『秋の日本』(Japonerie d'Automne、1889)を作品素材のひとつに選んだ。

展示風景より、《The Last Ball》(2019) 撮影=加藤健

 ロティは、海軍将校としてポリネシア、アフリカ、アジアなどに滞在し、様々な紀行文や小説を書き残した人物だ。それらは、植民地政策で支配的立場にあったヨーロッパからの眼差しで描かれてはいるものの、異文化に対する強い好奇心と憧れが表されており、『秋の日本』には、日本の自然美や日本人の美意識を称賛する表現も多く見られる。

 本展のメインとなる映像作品は、『秋の日本』の中の「江戸の舞踏会」の章をもとに制作されたもの。これは、1885年に鹿鳴館で催された舞踏会を訪れたロティが、35歳の自身の視線でその様子を描いた見聞録であり、その後の1920年には、これをもとに芥川龍之介が『舞踏会』(新潮社)を書いている。荒木は映像で、この2つを原作として東洋と西洋の「まなざし」が、ワルツを軸に同じ時空間のなかで交差する情景をつくり出すという。

 また、本展に展示されるもうひとつの映像作品では、『秋の日本』に収録されている「聖なる都・京都」「日光霊山」「江戸」の章で、ロティが記録した場所を荒木が撮影し、100年以上前と現在とのズレから、映像に写らない「風景」を描写することを試みる。

会場風景 撮影=加藤健

 東洋と西洋、ジェンダー、階層、世代、時代など、様々な差異の交錯が浮かび上がらせる本展は、人々にとって、多文化共生を目指す現代社会においての「他者理解」や「寛容」について考えるきっかけとなるだろう。

会場風景 撮影=加藤健
会場風景 撮影=加藤健

編集部

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