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イメージの心霊。
gnckが見た、原田裕規
「心霊写真/ニュージャージー」展

美術家・原田裕規の個展「心霊写真/ニュージャージー」が、東京・馬喰町のKanzan galleryで2018年3月9日から4月8日まで開催されている。「心霊写真」展(2012)、「作者不詳」展(2017)に続く「写真シリーズ」の総集編をgnckがレビューする。

文=gnck

展示風景より 撮影=加藤健

gnck評「心霊写真/ニュージャージー」展 イメージの心霊

 原田裕規は、キュレーターを名乗らない。展覧会を企画する姿は確かにキュレーターのそれと言える。しかし彼は自身を美術家と称する。であれば、彼は「キュレーションの技術について問うてきた」作家だと言えるだろう。その技術とは、何が芸術で何が芸術でないのかを選別する機能であったり、二つの物を並べたときにどのような意味が発生するのかであったり、リサーチし、収集し、並べてみせることであったりと、その都度のモチーフを変遷させながらも、問うべきものは一貫していると言える。

 今回の展覧会で原田は、ファウンドフォトと呼ばれる手法を採用する。原田は産廃業者や古物商を通じ、個人が撮影した古い写真を大量に収集し、その中の数点だけを引き延ばしたり、額装して展示する。展覧会のタイトルは「心霊写真/ニュージャージー」であるが、以前に原田が企画した「心霊写真」展とは異なり、収集展示されている写真に写り込んでいるものはいたって普通の人々だ。親戚が集まる宴会場、結婚の記念写真、親しい友人同士やカップルたち。被写体が向ける笑顔は、撮影者との親密な距離感を示し、いずれの写真からもその情感的なつながりが伝わってくる。その情感的な距離感は、SNS以降の、第三者からの眼差しが織り込み済みの距離とは異なるものである。原田はこの、「イメージが伝えてくる情感」をこそ、「心霊写真的」と呼んでみせる。そして同時に、「心霊写真」と名指されたそれらの写真からは、何かが起こっているのかもしれないという不穏さも伝わってくる。

会場に無造作に置かれた写真の数々 撮影=加藤健

 産廃業者が処分し、焼き捨てられるはずだった写真とはすなわち、持ち主もおらず、ともすれば撮影者や被写体もすでにこの世にはない写真である。しかし持ち主や被写体が存在しなくなろうとも、写真の持つイメージの情動的な力は、そこに宿り続けるのだ。作家自身が語るように、ホワイトキューブや額装は、その生々しいイメージの力を「ハンドリング」するための技術であろう。作家は、収集を続けるうちに、写真に写る人々が夢にまで現れるようになったという。会場において引き延ばされた写真の人物が、ことごとく顔をこちらに向けておらず、こちらを向く少年の写真の額装の余白が過剰に大きいのは、原田がイメージの持つトラウマからいかに自身を防衛するのかという課題と無関係ではない。

 展覧会の最後には、ニュージャージーと題された一連のシリーズが展示されている。「百年プリント」と銘が打たれた古いフォーマットのフレームに、時間の経過で黄ばんだような、はたまた傾いた日が色づいて黄色く染まったのかといった様子の風景写真だ。しかしこれは実際には、昨年撮影され、Photoshopで加工されたものに過ぎない。ファウンドフォトの展示の中で唯一、ここには偽装がある。

展示風景より、「百年プリント」シリーズ 撮影=加藤健

 さてでは、原田が「キュレーターではなく展覧会技術を用いる作家」であるならば、ファウンドフォトという技術はなぜ選択されるのだろうか。キュレーションはまずは、何を並べ何を並べないのか、という選択こそが中核的な機能であり、言い換えれば権力でもある。そのことに敏感であれば、今回の原田の選択は、被写体に対してはそれなりに倫理的な──発見された写真を「面白がる」のではなく、そのイメージの力をどうにかハンドリングしようとする──態度に見えるだろう。展示空間に膨大に積み上げられた写真からは、被写体の生活感が(同じ文化圏にある人々であるが故になおさら如実に)伝わってくる。だからこそ、それぞれの写真への親密な感情と、そして「心霊写真的」と原田が呼ぶ感覚への二重の共感が呼び起こされる。技術としてはささやかな方法論を採用しつつ、展覧会としては成功しているだろう。

 しかしながら、最後の偽装された写真はそれだけに蛇足にも見える。技術によって、「見出された写真」の発見の根拠に揺さぶりをかけるということよりもむしろ、つくり出されたイメージに、親密さと不穏さの「二重の共感」を生み出したときに初めて、展覧会技術が「作品化」されるはずなのだ。

原田裕規 心霊写真#1 2018 撮影=加藤健

編集部

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