「神戸六甲ミーツ・アート 2026 beyond」開幕レポート。観光をしながら「観光」という行為をアーティストとともに考える【2/5ページ】

兵庫県六甲山ビジターセンター/バンノ山荘

 天覧台からバスで10分ほどの場所にある、神戸の市街地や神戸空港などを一望できる「兵庫県六甲山ビジターセンター」。そのテラスには、Ryuichi Onoによる風を利用したキネティック・インスタレーション《RADIO ROKKO 山と海の対話》(2026)が展示されている。港町・神戸を象徴する船を想起させる帆をイメージしたこのオブジェは、振動板の機能を持ち、風が吹くたびに「街の声」を発生させる。

Ryuichi Ono《RADIO ROKKO 山と海の対話》(2026)。帆船のマストのような布が視覚的にも風の存在を感じさせる
朱志康《対話》(2026)。フレームに大量の紙垂が付けられ立方体をなしている

 朱志康は、日本の紙垂を使って立方体をつくり上げた作品《対話》(2026)をビジターセンターの庭園に設置。内部に入ることが可能で、鑑賞者はこの神聖な領域のなかで、神的なものとの対峙を試みる仕組みとなっている。

 ビジターセンターの徒歩圏内には六甲の伝統的な別荘地がある。戦前からこの地に立つ「バンノ山荘」は、長いあいだ空き家となっていたが、2023年以来、本芸術祭の作品発表の舞台として利用されている。

古巻和芳《道行き/ skywalker No.31》(2026)。森のなかの道を歩いているとロープの上に絶妙なバランスをとる女性像が表れる。

 山荘までは深い森の中の道を歩くことになるが、この道中で見ることができるのが古巻和芳による作品《道行き/ skywalker No.31》だ。森の中に張られたロープの上に設置された女性像は、郷土玩具の「ヤジロベー」のように、その手に持ったバランサーによって、糸の上に定立している。薄暗い森のなかをひとり、危ういながらも進み続ける人間を応援する作品にも思えてくる。

鈴木泰人《アシ・オト》(2026)。バンノ山荘の本邸の前にはこの邸宅の記憶を司るものが配置された
鈴木泰人《アシ・オト》(2026)。バンノ山荘のハナレでの展示。家具や残置物を使ってインスタレーションを展開

 鈴木泰人は《アシ・オト》(2026)をバンノ山荘の本邸とハナレを中心に作品を展開した。鈴木はこの山荘にまつわる家族や関係者と対話や交流しながらリサーチを実施。本邸では山荘に残されていた「場の記憶」をつかさどるものを戸外に並べ、屋内の記憶を周辺の環境と一体化させた。いっぽうのハナレでは、食器や家具を組み合わせたインスタレーションを屋内で展開。ものや場所にひもづいた記憶を、空間として提示している。

ROKKO森の音ミュージアム/新池

 オルゴールをはじめ、自動演奏楽器の音色を鑑賞できるコンサートを毎日開催しているROKKO森の音ミュージアムは、季節の植物や音の展示を体感できる「SIKIガーデン~音の散策路~」を擁し、四季の自然も散策しながら楽しめる。本芸術祭ではこのSIKIガーデンの各所に作品を展示している。

ROKKO森の音ミュージアムの自動演奏オルガン
Daisy Balloon《Between》(2026)。水上に植物のようにバルーンが並び、風がふくと揺れる

 バルーンを用いて様々な表現を行うユニット・Daisy Balloonは、庭園の入口にある池に、光によって色彩が変化するバルーン作品《Between》(2026)を展開した。ヒツジグサが花を咲かせるこの池に、風によって植物のように揺れるバルーンを配することで生命と非生命のあわいが表現されている。

モジャヒド・ムサ《Assemblages of an Uncertain Tomorrow》(2026)。不思議な静物が台座のうえで隊列をなす

 バングラデシュのアーティスト、モジャヒド・ムサは、近代化が進む同国社会の不確実性や、人々の記憶、自身のアイデンティティに目を向け、自然と自分を取り巻く世界を表現するアーティストだ。拾い集めた素材と自国から持ち込んだテラコッタを組み合わせ、架空の動物の群れを庭園内につくり上げた。

さわひらき《shadow step》(2024-)。内部に入ると映像を見ることができる

 さわひらきの《shadow step》(2024-)は、2024年より屋外に設置され続けている作品だ。当初はカメラ・オブスクラの構造を利用し、外部の景色を構造物の中に投射するものだったが、毎年アップデートされており、今年は建屋の内部に能登半島沖地震で倒壊した建物の柱を立てた。柱にはモニターが取りつけられており、架空の建物の内部を飛行機が飛ぶ映像が流されており、被災して不在となった家と、その内部に存在したはずの物語を見る者に感じさせる。なお、本作は今年が最後の展示になる予定であり、体験する最後のチャンスとなる。

平澤賢治《The Stirrings of a New Planet》(2017/26)。子供の頭部をサーモグラフィーによって撮影した印象的な写真が緑のなかに映える

 サーモグラフィーを用いた写真作品を制作する平澤賢治の《The Stirrings of a New Planet》(2017/26)は、庭園の自然あふれる風景のなかに、生まれたばかりの自身の子供の頭部や、胎内での様子を熱で捉えたサーモグラフィー写真を展示。生命の原初的な姿を自然の一部とつなぎ合わせた。

奈良美智《PEACE HEAD》(2020)。奈良が手で制作したサイズのものをディテールそのままに大型の屋外彫刻にしている

 なお「SIKIガーデン~音の散策路~」には、ほかにも草間彌生《南瓜》(2014)や奈良美智《PEACE HEAD》(2020)といった、誰もがその名を知るアーティストの作品も見ることができるので、ぜひ作品を見つけてみてほしい。

Shohei Takasaki《Untitled(August 24 2026 / A circle)》(2026)。湖上に人物の隊列が生み出された

 ROKKO森の音ミュージアムから徒歩数分の場所にある、50メートル四方ほどの大きさの小さな池「新池」。Shohei Takasakiはこの水上に、上空から見て「∞」の形になるようにパネルを立て、そこに連なる人物像を描いた。日々の生活の連なりが歴史になっていった、そんな人間の営みを感じさせる作品だ。