紙垂に囲まれた空間で精神世界と向き合う
──朱さんの作品《対話》を拝見しました。展望台の芝生の庭に白い立方体が出現し、その表面は無数の紙垂で埋め尽くされている。風が吹くと紙垂が揺らいで深い味わいが感じられました。
朱志康 謝々(ありがとうございます)。この作品は、以前に日本を旅行した際に神社に出かけて、そこで紙垂を見て感動した経験がもとになっています。紙垂に興味をもち、インターネットで調べるだけでなく、詳しい方にも教えていただいたことで、その意味への理解が深まり感動が一層大きくなりました。世俗の場所と神聖な空間を分ける「結界」という概念が非常に興味深く、日本文化を象徴するものだと思ったので、作品のモチーフとして取り入れることにしたのです。


──紙垂は縄に挟むなどして飾ることが多いのですが、この作品では立方体の表面を覆うように配置されています。作品の内部に入れるのも特徴的ですね。
朱 私は建築やデザインの仕事をしていることもあって、日頃から空間をすごく敏感に感じています。今回は紙垂を使って神聖な空間をつくろうと思い、そこから立方体のイメージに至りました。外から眺めるだけでなく、中に入って作品と対話してほしい。だから作品の一隅に小さな入り口を設けたのです。
私の思いとしては、人と紙垂だけのピュアな空間をつくりたかった。風が吹くと紙垂が揺らいでとても美しいです。また、作品の底部に照明が仕込んであり、日が暮れるとライトアップされるので、夕方以降の鑑賞もおすすめします。

──作品のサイズについても知りたいです。約3メートル四方の立方体の大きさはどこから導き出したのですか。
朱 日本の茶室、数寄屋建築からインスピレーションを得ました。作品の中に入る入り口も茶室のにじり口を意識しましたが、観客を深くかがませるのは申し訳ないので、少し大きめにしています。茶室では主人と客が座って対話します。今回の作品は座る前提ではありませんが、茶室で誰かと向き合うときのように体験してほしいと思っています。《対話》というタイトルには、人間と神様の対話、あるいは自分自身の内面との対話という意味を込めました。
じつは昨日、「神戸六甲ミーツ・アート 2026 beyond」の会場のひとつである「風の教会」に行きました。建築家・安藤忠雄さんの初期の代表作です。キリスト教の方はあの空間に入ると信仰心が刺激されるのではないでしょうか。私も特別な空間を生み出すために紙垂を用いてはいますが、特定の宗教ではなく、自分が信じている神様との対話の場がつくれればと考えています。
──朱さんはスピリチュアルな要素を大切にされているのですね。
朱 私はいろいろな作品を手がけてきましたが、すべてに関連性があると思っています。例えば、2021年に台湾南部の屏東で開催された「落山風藝術祭」に出展した《海からの祝福》(2021)は、海岸の砂浜に教会の形をしたフレームがあり、そこに無数の白い布が巻き付けられて風に揺らいでいます。2016年のヴェネチア建築ビエンナーレでは、「都市の歴史の流れ」をテーマに銅を用いた立体のインスタレーションを制作し、時間とともに生じる錆などの変化を山水的な価値観で表現しました。その頃から神様との対話というテーマが高まってきたのだと思います。
──台湾にも紙垂と類似した神具があるのでしょうか。
朱 いえ、ありません。台湾には木製で赤い三日月形のポエというものがあり、それを2枚セットで投げて、どんな形になるかを見て神様の返事を読み取ります。いつでも神様と対話できるし、尋ねるとすぐに返事が返ってきます。人間と神様のあいだに境がなく、距離が非常に近いのが特徴です。
──じつはこのインタビューの前に、ある登山客から面白い話を聞きました。裏六甲(六甲山の北側を地元の人はそう呼ぶ)の登山道に「シュライン・ロード」と呼ばれるコースがあり、そこには石仏や祠、鳥居、神社などが点在していると。その方はシュライン・ロードを通って山上に着いたら朱さんの作品に出会ったものだから、作者もそれを知っていてこの場所に作品をつくったのではないかと言うのです。
朱 いいえ。会場近辺の神社やお寺には参拝しましたが、シュライン・ロードのことは知りませんでした。でも、不思議な縁を感じるエピソードですね。
*1──神社や神棚で見られる、しめ縄、玉串、御幣などに挟んで垂らした白いジグザグの紙片。































