• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 「笹岡由梨子のパラダイス・ダンジョン」(滋賀県立美術館)開幕…

「笹岡由梨子のパラダイス・ダンジョン」(滋賀県立美術館)開幕レポート。唯一無二の世界観が織りなす、不気味で愛おしい人形と映像の関係性に迫る【2/3ページ】

 笹岡が映像制作を始めるきっかけとなったのは、2011年3月11日に起こった東日本大震災だったという。連日報じられるニュース映像が、どこかゲームや映画のような虚構にも感じられたことから、笹岡はあえて“クソコラ”とも言える、手跡の残る手法による映像制作に取り組み始めた。もともと絵画を専攻していた笹岡は、そこに独自の絵画性を見出している。

 展示の最初のエリアには、初めて制作した2秒の映像作品《無題》(2011)をはじめ、《水中のボディ・ビルディング》(2013)、《Anima》(2014)、《Atem》(2015)といった初期作品が並ぶ。続く展示エリアでは、ギリシア神話と日本の花嫁人形の風習を掛け合わせた《イカロスの花嫁》(2015–16)も上映されている。これらの作品には、笹岡自身が演じる「人形」が登場する。

展示風景より。手前は笹岡が初めて制作した2秒の映像作品《無題》(2011)
展示風景より、《イカロスの花嫁》(2015–16)。本作は、現在国立国際美術館で開催中の「プラカードのために」(〜2月15日)展にも出品されている

 切断しても再生する特徴をもつ生物「プラナリア」の名を冠した映像作品では、タイトルとは対照的に「死」というテーマが扱われている。コロナ禍や親族の死を経験し、「死」に対する実感が深まっていた時期に制作された本作は、笹岡にとって初めて合成を用いずに制作された作品でもある。

展示風景より、《プラナリア》(2020–21)。「死」がテーマとなる本作では、自死率の高い12ヶ国の民族衣装を着た人物や、佐々岡が食べ残した魚の頭部が人形となって登場する。滋賀県立美術館収蔵品

 ちなみに、本展タイトルの「パラダイス・ダンジョン」は、「楽園」と「迷宮」という正反対の言葉を組み合わせたものだ。ゾクゾクするような感覚と愛おしさ、コミカルな表現と重厚なテーマ性といった、相反する要素が同時に立ち現れる笹岡作品の在り方が、このタイトルにも反映されている。

展示風景より。劇場のような展示室と薄暗い通路。展覧会タイトルにもある「パラダイス」と「ダンジョン」が混在するような展示空間にも注目したい

 今回撮影することは叶わなかったが、笹岡の代表作とも言える「アニマーレ」シリーズも本展を語るうえで欠かせない作品群だ。動物労働の歴史に関する綿密なリサーチを背景に、人間社会における動物の存在や関係性について、笹岡ならではの視点から問いかけている。本シリーズでは、これまで映像のなかに登場していた人形が展示空間へと広がり、人形の一部として映像が用いられている点も印象的だ。

編集部

Exhibition Ranking