「舟」の中で海原を見る。《洸庭》がもたらす没入型アート体験

広島県福山市の山間部に位置する「神勝寺 禅と庭のミュージアム」にあるアートパビリオン《洸庭》。彫刻家・名和晃平率いるクリエイティブ・プラットフォーム・Sandwichの設計による舟型の建物で瞑想的な体験ができるインスタレーションの様子をレポートする。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

《洸庭》の外観 Photo: Nobutada OMOTE | SANDWICH

 広島県福山市の山間部に位置する「神勝寺 禅と庭のミュージアム」。開基神原秀夫が禅師を開山に招請して建立された、臨済宗建仁寺派の特例地寺院である「天心山神勝寺(しんしょうじ)」を中心に広がる境内には、「禅とはなにか」を感じるための様々な空間や体験が展開されている。

 そんな境内のなかで一際存在感を放っているのが、《洸庭》だ。彫刻家・名和晃平と、名和が率いるSandwichの設計によるアートパビリオンである。神勝寺は、常石造船2代目社長だった神原秀夫により、「海難事故に遭われた方の供養のためにお寺を建てたい」という想いで開かれた。そんな背景を踏まえた名和は、作品のモチーフに「舟」を選んだ。

《洸庭》の外観 Photo: Nobutada OMOTE | SANDWICH

 舟型の建物は石のランドスケープの上に浮かぶ。近くの採石場の崖をダイナマイトで破壊し、崩れた錆石が地面に敷き詰められたその様子は、まるで石による海のようだ。そこから湾曲した黒い棒のようなものが生えている。これは、庭の植栽を担当したプラントハンターの西畠清順が提案した「ソテツワラビ」だ。海を模した石のランドスケープに群体となって生えるその様子は、石の海に波の強弱を感じさせる。

石のランドスケープとソテツワラビ Photo: Nobutada OMOTE | SANDWICH