市内各所
ニューヨークとロンドンを拠点とするメディア企業であり、その創設以来、文学の美学、流通、目的といった従来の枠組みに挑戦し続けてきたlsolarii。今回、シモーヌ・ヴェイユが1933年から1943年の死の直前まで書き続けた全ノートから初めて編まれるアンソロジ一『脱創造』が製作され、市内各所で無料配布される。この特別版にはパレーノによる序文がカバー裏に印刷されており、本展の核をなすものとして位置付けられる。

ポーラ美術館での個展開催で注目を集めるライアン・ガンダーは、《The Find(発見)》として3種類のデザインを施した約2万枚ものコインを公共の場で無償で配布。3種類のコインはそれぞれ「一時停止と行動」「一緒とひとり」「話すと聞く」というテーマに基づいており、「お金」そのものではなく「時間」や「注意」の価値を思い起こさせる存在であると同時に、選択や自発性を助ける意思決定のツールとして機能するようデザインされている。
なおこのコインをフィーチャーしたティーザー広告キャンペーンがアーティスト自身のデザインによって制作され、ポスターやバナー、ステッカーとして街中に溶け込んでいる。

Courtesy of the artist ©2025 岡山芸術交流実行委員会 撮影=市川靖史
本作はファクトリー・インターナショナルがマンチェスター・インターナショナル・フェスティバルのために制作を委嘱した作品

またアメリカのプロダクションデザイナー、ジェームス・チンランドは岡山市内の路線バスの車体下部にカラフルなLEDライトを取り付けるプロジェクト《レインボーバスライン》を展開。バスが街を走り抜けるたびに、人々に「何かが起きている」というサインを送り、好奇心を刺激し、街を探検させることを目的としている。

Courtesy of the artist ©2025 岡山芸術交流実行委員会 撮影=市川靖史
芸術祭といえば巨大でサイトスペシフィックな作品がつきものだが、今回の岡山芸術交流ではそのような作品は数少ない。むしろ、パレーノが言うように「2つの世界の間」をブリッジさせ、市民に微かな違和感を与えようとする作品こそが主役といえる。それは上述のライアン・ガンダーやジェームス・チンランドの実践からもよくわかるだろう。市内に惑星のように散らばる作品をめぐり、それぞれが異なる銀河をかたちづくってほしい。



















