展覧会は9章構成。第1章「風刺画の基盤」は本展の導入となる。江戸時代の時事を扱う錦絵は出版規制の対象だったので、あからさまな表現を避け、様々な工夫をもとに風刺をした。本章ではこうした錦絵の基本をイントロダクションとして提示する。
歌川芳艶画《矢矧橋夜半落雁》(1861)は、牛若丸が岡崎の矢作橋で伊勢三郎義盛に出会う場面を描いたとしているが、実際には豊臣秀吉の少年時代が画題となっている。織田信長や豊臣秀吉のエピソードは画題として人気があったものの、実在の武家を題材にすることは幕府から規制されていたため、このように過去の類似の出来事に仮託して表現することが錦絵では頻繁に行われた。

ほかにも、歌舞伎役者の似顔絵を禁じられれば、子供たちの遊びとして演目を描いたり、玩具や料理を実在の人物の暗喩として描くこともあり、こうしたとんち合戦のような趣向が錦絵の魅力といえるだろう。
