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特別展「志村ふくみ 100 歳記念 ―《秋霞》から《野の果て》まで―」(大倉集古館)開幕レポート。自然、物語、感情、すべてが染織になる【2/3ページ】

 滋賀・近江八幡の医師の家・小野家に生まれた志村は、幼くして東京に住む叔父の志村家の幼女となった。17歳のときにこの出生の秘密を知った志村は、このときより実母である小野豊から強い影響を受けるようになる。豊は若い頃に柳宗悦や、柳と志をともにした上賀茂民芸集団で染織と織物の手ほどきを受けていた。志村は一度は結婚し子供を設けるものの32歳のときに離婚。近江八幡に帰り、母・豊の手ほどき、そして豊の紹介による黒田辰秋、富本憲吉らの指導を受けるようになる。こうした染織家・志村ふくみをかたちづくった時代の象徴的な作品として、会場の「源流」の章では、志村が初めて織り日本伝統工芸展で初受賞した《秋霜》(1958)と、母・豊による《吉隠》(1960頃)が展示されている。

展示風景より、左から志村ふくみ《近江の帯1》(1960頃)、《秋霜》(1958)、小野豊《茶地格子》(1960頃)

  琵琶湖は志村が染織の道を歩み始めた地であり、創造の源泉でありつづけた場所だ。「琵琶湖」の章では四季によって様々な表情を見せ、また志村にとっての魂のふるさとだった琵琶湖に着想した作品を展示している。例えば、《月の繭》(1985)は湖上の沖ノ島の上に月が昇る様に感動して考案した作品、《雪の湖》(2007)は厳冬の湖北の黒く静まる湖に心を動かされて考案した作品。自然由来のイメージがどのように染織というかたちで表現されているのかを堪能できる。

展示風景より、左から志村ふくみ《水の想い出》(2003)、《月の繭》(1985)、《雪の湖》(2007)

 「源氏物語と和歌」では、志村が70代半ばから取り組みはじめた『源氏物語』を題材とした連作を紹介。作品のタイトルは物語の各帖からとられ、《澪標》では明石の君の物語の舞台となる海が、《夕霧》では源氏の長男である夕霧の仄暗い恋慕の情が、《初音》では歌に読まれた年初のウグイスのかわいらしい鳴き声などを表現している。

展示風景より、左から志村ふくみ《澪標》(2004)、《夕霧》(2001)、《初音》(2010)

編集部

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