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特別展「志村ふくみ 100 歳記念 ―《秋霞》から《野の果て》まで―」(大倉集古館)開幕レポート。自然、物語、感情、すべてが染織になる【3/3ページ】

  「旅と文学」はドストエフスキーやリルケといった文学ゆかりの地をはじめ、世界中を旅することでイメージを膨らませてつくりあげた作品を紹介。小説家・石牟礼道子の新作能と呼応するかたちでできた鮮やかな紅染の《舞姫》、宮沢賢治『雁の童子』の冒頭の流砂を表現した《流砂》など、その発想の豊かを感じてもらいたい。

展示風景より、右から志村ふくみ《舞姫》(2013)、《諸国遊行》(2014)、《流砂》(2008)

 「沖宮──妣なる国」は、志村と小説家・石牟礼道子が現代日本への危機感から、次世代に残すメッセージとしてつくった新作能「沖宮」の衣装を紹介。石牟礼の故郷である天草を舞台とした人々の死と再生の物語を彩った舞台衣装を堪能できる。

展示風景より、左から志村ふくみ監修、都機工房制作 長絹《紅扇》(2018)、水衣《水瑠璃》(2017)、狩衣《竜神》(2018)

 最後に「エントランス」の展示を紹介したい。エントランスで来場者を迎える《母衣曼荼羅Ⅱ》(2017)は、志村が自らの集大成として制作した作品だ。原点である自身最初の染織作品《初霜》に立ち返り、つなぎ糸をふんだんに用いながら、まるで十字に光が当たっているかのように見える、神々しい織物をつくりあげた。これまでの志村の仕事の重厚さを物語る作品だといえよう。

展示風景より、志村ふくみ《母衣曼荼羅Ⅱ》(2017)

 染と織りの繰り返しによって生み出された、詩的で物語性のある作品の数々。志村ふくみという染織家の生き方と発想をいちから知ることができる機会となっている。

編集部

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