1950年代末に北米とヨーロッパで興隆したポップ・アートは、コミック、広告、映画、セレブリティ、食品、タブロイド紙など、一般大衆に身近なものをモチーフにしており、日常の現実と芸術の境界を曖昧にする試みがなされていた。ウェッセルマンの作品は、アメリカの大衆文化や資本主義社会における現実の再現を試み、アイコニックなイメージと鮮烈な色彩を用いることにより、1960年代のポップ・アートにおいて特異な位置を占めていた。アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインらとともに、資本主義の消費社会における現実と人生の意味を問い直す作品を制作したウェッセルマンは、広告や日常の物体を取り入れたコラージュ手法を駆使し、ダダイスム的な多声性と共振する実験的な作品を生み出している。
とくに注目すべきは、ウェッセルマンが作品に取り入れた「オブジェ・トルヴェ」(見つけられたオブジェ)や、現実の感覚を刺激する要素だ。《グレート・アメリカン・ヌード #44》(1963)には電話の音、《スティル・ライフ#28》(1963)には時計のチクタク音、ファンの音、ラジオ、テレビ画面の動く映像などが組み込まれており、これにより複数の現実が一体となった層状の空間がつくり出されている。
こうした感覚を超えた現実を作品に取り込む姿勢は、現代のアーティストにも大きな影響を与えている。例えば、KAWSがデジタルインスタレーション《COMPANION(EXPANDED)》で見せたような拡張現実(AR)や仮想現実(VR)の実験はウェッセルマンの作品とも共鳴しており、デジタル技術と物理的なメディアを融合させることで、現実と仮想の境界を曖昧にする。
また、ウェッセルマンのポップ・アートへのアプローチは、アメリカの日常生活を反映させるだけでなく、「超現実」として新たな色彩と意味をも与える。漢王朝の壺にコカ・コーラのロゴをあしらったアイ・ウェイウェイのようなアーティストたちは、ウェッセルマンの手法を引き継ぎ、日常のオブジェクトを再コンテクスト化することで、文化的・政治的な問題に対するメッセージを発信している。