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マーク・ロスコの「感情のための絵画」をめぐって。フォンダシオン ルイ・ヴィトンで大回顧展が開催中

20世紀アメリカ美術の巨匠、マーク・ロスコのパリでの24年ぶりの大回顧展が始まった。その謎めいた作品と展示される空間にまつわる数々のポレミックを経て、1999年のパリ市立近代美術館での展覧会でも協働したアーティストの遺族とベテラン学芸員により実現した新たな展覧会をリポートする。

文=飯田真実

マーク・ロスコ展の展示風景(展示室5「シーグラム壁画」より)© 1998 Kate Rothko Prizel & Christopher Rothko - Adagp, Paris, 2023

現実を映す窓

 テートの「ロスコ・ルーム」全9点をはじめ、初期の具象絵画から晩年の抽象画まで約115点の作品が一堂に紹介される、と聞いて、会場のフォンダシオン ルイ・ヴィトンへ出向いた。事前に手にしたプレスキットの表紙の絵は1960年制作の大型の油彩《No. 14》で、サンフランシスコ近代美術館から来たようだ。記憶では、ロスコの絵はどこかに向けて開かれた窓のように、複数の長方形の色面が浮遊感を持って漂っているが、じっくり見ていると深淵なそれが急にこちらに迫ってくるようでもある。そんな実存主義的な絵画に鑑賞者が個々に没入するような空間に立ったとき、今日の私は何を思うだろうか。

 鑑賞者を迎える最初の絵は小ぶりで、父親の職業であった薬剤師のようにも見える眼鏡をかけたマーク・ロスコ(1903〜1970)の唯一の自画像だった。この展示室にしつらえられた円形の壁に沿って初期の具象作品が並び、1930年代のニューヨークの街頭や地下鉄のホームに佇む匿名の人々がそれぞれに孤立した存在として、ややナイーブだが独特の世界感でとらえられている。ロスコはロシア帝国時代のドヴィンスクのユダヤ系の家に生まれ、迫害から逃れるため10歳のときに一家で米国オレゴン州ポートランドに渡った。さらに23歳でニューヨークに移り美術を学び始めると、キュビスムのマックス・ウェーバーや簡素な色と構成で知られるミルトン・エイブリーらに出会っている。

展示風景から、マーク・ロスコ《自画像》(1936)
© 1998 Kate Rothko Prizel & Christopher Rothko - Adagp, Paris, 2023
マーク・ロスコ Untitled (The Subway) 1937
Collection Elie et Sarah Hirschfeld
© 1998 Kate Rothko Prizel & Christopher Rothko - Adagp, Paris, 2023
Crédit photographique : © Glenn Castellano, New-York Hitorical Society

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