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特別展「線表現の可能性」と「コレクション1 彼女の肖像」(国立国際美術館)開幕レポート。芸術における表現の幅広さ【4/4ページ】

 第4章「労働と移動」では、仕事や移動を通じた女性の姿が描かれる。宮本隆司の写真シリーズでは、香港の九龍城砦に暮らす女性たちの日常がとらえられている。スラムと違法な商売の温床として知られるこの場所で、女性たちが生活の糧を得るために働き続ける姿には、労働の厳しさとそのなかにある逞しさが見て取れる。また、台湾でケア労働に従事する移民女性の夢を映像作品で表現した饒加恩(ジャオ・チアエン)は、国境を超えた労働移動と個人の願望や不安に目を向けている。

展示風景より、宮本隆司「九龍城砦」シリーズ
展示風景より、饒加恩《レム睡眠》(2011)

 第5章「個人と国家」では、国家という枠組みに影響を受けながらも、それにとらわれずに生きる女性の姿が描かれる。石内都の写真作品は、戦後の横須賀で育った自身の記憶を重ねながら、米軍基地の街で働いた女性たちの痕跡を残している。また、石川真生と山城知佳子の作品は、戦後沖縄の女性たちが国家と個人の狭間でどのように生き抜いたかを表現している。

第5章「個人と国家」の展示風景より

 第6章「近年の収蔵品から:作家の肖像」では、若手女性作家たちの新たな表現が登場する。谷原菜摘子や片山真理といったアーティストが、自身を主題にした作品を通じて、自己の表現とアイデンティティの模索を行っている。また、山脇道子やシャルロット・ペリアンなど、20世紀に活躍した女性デザイナーの影響を受けたレオノール・アントゥネスのインスタレーションも展示され、女性が自己を創造する多様なかたちが紹介されている。

展示風景より、床の作品はレオノール・アントゥネス《主婦とその領分》(2021–23)

 特別展「線表現の可能性」では、それぞれの作家が持つ独特の美学と時代を映し出す姿勢が表れており、いまなお現代美術の発展に大きな影響を及ぼしていることを感じた。いっぽうの「コレクション1 彼女の肖像」展は、たんに女性の外見や役割を描くだけでなく、女性が直面する社会的な困難や多様な生き方を描き出し、鑑賞者に新たな視点を提供している。同館に足を運ぶ機会があれば、それぞれの展覧会で線表現の可能性や現代社会における女性像の再解釈について思いを巡らせてみてはいかがだろうか。

編集部

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