6月2日に再開した大阪の国立国際美術館。同館で、開幕が延期となっていたヤン・ヴォーの個展「ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ」が「コレクション1:越境する線描」展とともに会期を変更し、10月11日まで開催されている。
ヤン・ヴォーは1975年ベトナム生まれ、現在はベルリンとメキシコ・シティを拠点に活動を行う。2018年にはニューヨークのグッゲンハイム美術館で個展「Take My Breath Away」を開催するなど、いま世界で注目を集めるアーティストだ。本展は、日本の美術館では初のヴォーの個展となる。
ヴォーは4歳のとき、父親の手製のボートに乗って家族とともにベトナムから逃れた経験を持つ。海上でデンマークの船に救助され、難民キャンプを経てデンマークに移住。その後はコペンハーゲンやドイツ・フランクフルトで美術を学んだ。
そんな自身の経験や家族の歴史、社会的・政治的な歴史に彩られたレディ・メイドの物、写真や手紙などの蒐集品、そして周囲の大切な人たちの手でつくられたものを取り込みながら作品化してきたヴォー。作品を通してアイデンティティや権力、歴史、エロティシズムといったテーマが現れ、鑑賞者にひとつの事物に対して異なる角度からの視線を持つことを誘う。
例えば昨年からヴォーは、教師、父親、恋人、ミューズである甥にまつわる作品を制作。自分にとって重要な人々による絵画や写真などの作品を取り上げ、それらを再構成することによって、自身の姿を浮かび上がらせる。
また《セントラル・ロトンダ/ウィンター・ガーデン》(2011)は、ベトナム戦争の終戦が宣言された建物に吊るされていたシャンデリアにフォーカスした作品だ。ヴォーは個人の記憶と集団の歴史を召喚・置換し、文脈によってすでに獲得された対象物の意味がどのように変化するのかを探求する。
本展では上記に加え、ベトナム戦争を推し進めたアメリカ国防長官R.マクナマラの遺族との協働による作品など、新作、近作を含め約40点あまりを展示。ヴォーによって考え抜かれた、展示空間への作品の配置にも注目したい。