第1章「過去への注目」では、人々がどのような「過去」に注目してきたのかを資料から考える。
『日本書紀』は『古事記』とならび、現代に伝わる歴史書としてはもっとも古く、8世紀前半ごろに成立したとされる。本展に展示されている《日本書紀神代巻》(1599)は、後陽成天皇(1571〜1617)が自ら進んで活字活版として発行したもので、皇族の系統を明らかにし自らが初代天皇とされる神武天皇の系統にあることを強く示したものといえる。
戦国期を経て近世に至ると、人々は好奇心によって過去を探求するようになる。江戸時代以降になると「好古家」と呼ばれる、過去の事物を集積して筆写する人々が現れる。こうして、《聆涛閣集古帖 甲冑軍営》(19世紀、江戸時代)のように、好古家が甲冑の形態や様式を仔細に記録したものが残されるようになった。
近世以降、ヨーロッパでの産業革命を発端に社会状況の変化の速度が加速していく。日本も例外ではなく、その最たる変化が明治維新といえるだろう。旧来の価値観が否定され、新たな文化が大量に導入されるなかで、過去の事跡を記録する活動が全国的に展開された。
福島県白石市の指定文化財である《静山漫録》(明治時代)は、旧仙台藩士の遠藤允信が20年近くにわたり集積したものだ。明治以降、全国各地で古記旧物が失われている状況に危機感を抱き、調査内容を集積したものだ。遠藤が京都近辺の個人宅や古書店を訪れ、考古資料を書き写した貴重な歴史資料だ。
また山形県米沢市の伊佐早謙は、旧米沢藩主である上杉家の史料編纂に携わり、米沢に関わる様々な記録を収集している。これら1万点を超える資料群は『林泉文庫』と名づけられ、いまも米沢の歴史を伝えている。