第3章「現代という過去 〜経験の記憶〜」は、現代に近づくにつれ範囲が広がっていった歴史資料のあり方を紹介し、そこから学べるものについても考える。
例えば市井の人々が身の回りのことを書く「ふだん記(ぎ)」という活動が、1970年代に八王子で起こった。こうした「自分史」もまた、当時の社会の断片をいまに伝える歴史資料といえる。
戦後の記録映画において重要な足跡を残した小川紳介をリーダーとする小川プロダクションは、現在においても記録映画として高い評価を受ける、成田空港建設をめぐる「三里塚シリーズ」を制作。社会運動もまた映像というかたちで後世に残るようになる。
阪神淡路大震災をはじめ、社会を揺るがす大災害も、その対応から復興にむけての経過などを歴史事象として後世に残していくことが必要とされる。会場には、神戸市須磨区の下中島公園の避難所や被災者たちの交流拠点「しんげんち」の看板、被災者を描いたスケッチ、外国人住民向けの多言語放送「FMわいわい」の音声記録など、様々な確度からの震災資料が並ぶ。
いまだ記憶に新しい新型コロナウイルスのパンデミックも記録され、後世に残すべき事象となる。2020年7月、大規模感染が起こった鹿児島県の与論島は、島の人々が協力し対応する試みを続けた。方言で島民をはげます島内放送や、実際に使われていた感染防止策の呼びかけ表示などを展示することで、歴史化の手つきを示す。