エドガー・サラン個展「EDGAR SARIN ー HUNKY DORY」(VAGUE KOBE)レポート。展示空間の可能性やその調和の在り方を問いかける

兵庫・神戸のVAGUE KOBEで、エドガー・サランの個展「HUNKY DORY」がスタートした。会期は7月29日まで。

文=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より photo: Miyo Ogawa

 兵庫・神戸のVAGUE KOBEで、エドガー・サラン(1989〜)の個展「HUNKY DORY」がスタートした。会場となるVAGUEは、プロダクトデザインや空間デザインを手がける柳原照弘の「TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO」が主宰するスペースとして、昨年10月にチャータードビル内にオープン。南仏・アルルに開設されたスタジオ兼ギャラリー「VAGUE ARLES」に続き、神戸は2箇所目となる。

 サランはマルセイユ生まれでパリに在住するアーティストだ。人間にまつわる政治的・環境的な調和に関して作品制作を通じて探究しており、生成的な廃墟を扱った作品や、既存の展示空間に対する問題提起が注目を集めている。

 本展は、パリのギャラリストでコレクターのイヴォン・ランベールによる私設美術館「コレクション・ランベール(Collection Lambert)」の協力もと、若手アーティストの支援を目的に実施されるもの。その第1回目となるサランは、同館チーフ・キュレーターのステファン・イバルによって選出された。

 日本において2度目の個展開催であり、初めて神戸での滞在制作を行ったサラン。本展の開幕に先立ち、その思想について次のように語った。「いまの時代、スケッチから起こした作品を展示会場に持っていく意味はあまりないと感じる。現地で直感的なアプローチをしながら、エコロジーについて考えていくことが重要だ。自身は、谷崎潤一郎氏の『陰翳礼讃』や小津安二郎氏の映画作品からも影響を受けており、日本で個展を開催することはひとつの夢であった」。

展示風景より

 滞在中は、現地で手に入れた様々なマテリアル──VAGUE KOBEにまつわる木材や石材、竹、雨水、日本各地の土などを用いて作品制作にあたったという。日本に滞在し、VAGUE KOBEで制作・展示を行ったことについて話を聞くと、「この展覧会は神戸でしかできない。それほどその要素が会場や作品に浸透している」と語っていた。

展示風景より photo: Miyo Ogawa
展示風景より photo: Miyo Ogawa

 サランによって生み出されたオブジェクトや絵画作品が、VAGUE KOBEの元銀行としての面影を残すしつらえや、左官職人によって仕上げられた美しい土壁と調和し構成されているのも大きな見どころだ。「ジャズの即興のように」とサラン自身が表現するこの空間は、作品同士が互いに独自のリズムで結びつきながら、豊かなハーモニーを生み出している。

 最後に、サランが所属する研究グループ・La Méditerranéeによる活動記録の一節を紹介する。

 展覧会とは行動を起こす空間であり、そこに集められた作品はその行動の最初の手がかりである。

(『2020 - 2022 La Méditerranée』より一部抜粋)

編集部

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