東京・早稲田の草間彌生美術館で、「草間彌生、具象を描く」展が開幕した。会期は9月1日まで。
水玉をはじめとする単一モチーフの反復による抽象絵画でよく知られる草間彌生。いっぽうで草間は10代の頃から動植物の写生を数多く描いてきた。そうした具象絵画は草間の創作活動の出発点とも言えるものであり、幻視や内面のヴィジョンを具体的なかたちに表すものとして、その後も様々な変遷を遂げてきた。本展は、1940年代から現在までに草間が制作してきた具象作品の多様な展開に注目するものだ。
まずエントランスには、1960年代に初めて発表された、ボートを用いたソフト・スカルプチュアシリーズの最新作《赤熱の海を行く》(2024)が世界初公開されている。その名の通り銅色に輝く突起物に覆われたボートからは、草間の尽きることがないエネルギーを感じ取れるだろう。
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2階では初期から2000年代初頭までの具象表現が並ぶ。とくに注目したいのは草間が10代の終わりに描いたスケッチだ。1948年に描かれた《ビワの葉》や《玉葱》をはじめとする作品からは、草間が当時からすでに鋭い観察眼と高い描写力を有していたことがうかがえる。
また同室では、世界初公開となる70〜90年代に集中的に取り組んでいたコラージュ作品や、1979年に着手して以降、膨大な点数を手がけている版画など、多様な具象的表現に注目だ。
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3階は、2000年以降に手がけてきた草間の版画シリーズ「愛はとこしえ」や絵画シリーズ「わが永遠の魂」「毎日愛について祈っている」のなかから、自画像や不思議な人物像が描かれた作品が選りすぐられ、壁を埋める。モチーフとして描かれているのは横顔や目など具象的なイメージだが、それを画面全体を埋め尽くすように繰り返し描くことで、まるでオールオーヴァーな抽象絵画のような様相を呈している。なお、この部屋では日本初公開となる立体作品も4点展示。
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草間がもっとも好むモチーフのひとつである「かぼちゃ」も堪能できる。今回は、同館の開館を記念して制作したミラールームのインスタレーション《無限の彼方へかぼちゃは愛を叫んでゆく》(2017)と、大型の彫刻《大いなる巨大な南瓜》(2024)をそれぞれ4階と5階で見ることができる。
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草間の長いキャリアのなかで、いかに具象的な表現が変遷してきたのか。その歴史を垣間見ることができる展覧会だ。