今年度、国宝や重要文化財として指定される美術品や工芸品、歴史資料、考古資料などを展示する、文化庁と東博の共催による特別企画「令和6年 新指定国宝・重要文化財」展が東京国立博物館で開幕した。会期は5月12日まで。
本展で披露されるのは、今年3月15日に実施された文化審議会文化財分科会の審議・議決によって新たに国宝や重要文化財として指定されるもの。今年度は国宝6件、重要文化財36件が指定される予定で、本展はこれらの新指定品を実物と映像で紹介する。各部門の展示を見ていきたい。
「彫刻の部」は国宝1件、重要文化財が5件指定される。国宝としては鎌倉時代《木造六観音菩薩像》と《木造地蔵菩薩立像》が併せて指定。生気あふれる身体表現が特徴で、鎌倉時代の様式の下敷きをつくったといわれる京都・大報恩寺の仏像だ。会場では六観音のうちの1体と、菩薩像の合わせて2体が展示されている。
「絵画の部」では重要文化財10件を指定。一幅に五百羅漢を描きつめた、京都・知恩院に伝わる朝鮮・高麗時代の《絹本著色五百羅漢図》や、サントリー美術館に保管されている土佐光茂筆の《紙本金地著色日吉山王・祇園祭礼図》が指定される。《日吉山王・祇園祭礼図》は日吉社の山王祭と京都の祇園祭を一緒に描いた室町時代の屏風としては大変保存状態が良い一双で、生き生きとした祭礼の描写から、後の祭礼図流行の嚆矢となった存在といえる。
ほかにも「絵画の部」では近代以降の絵画も重要文化財となっており、洋画の普及に務めた本田錦吉郎の油絵《羽衣天女》(1890)や、小野竹喬の屏風《波切村》(1918)が指定された。
「考古資料の部」では国宝1件、重要文化財6件が指定。国宝となった「三重県宝塚一号墳出土埴輪」のなかでも船形埴輪は、大型にも関わらず9割が残存している貴重なもので、古墳時代の船の姿を現代に伝えている。装飾性も高く、 刀、杖の頭(と思われる)、衣笠と、王の権威を象徴する品々が各個別のパーツで制作され船に積載されていることも特徴だ。こちらは松阪市文化財センターに保管されている。
「書籍・典籍の部」では国宝3件、重要文化財2件が指定。皇居三の丸尚蔵館に収蔵されている平安時代の《和漢朗詠集(雲紙)》と、奈良の金峯神社と金峯山寺がもとはひとつだったものをそれぞれ所有する《金峯山経塚出土紺紙金字経》が国宝に指定された。とくに《金峯山経塚出土紺紙金字経》は、藤原道長と師通が自ら書写して金峯山に埋納したもので、仏教史や文化史における大変貴重な資料といえる。
「古文書の部」では、国宝が1件、重要文化財に5件が指定。宮城・多賀城市にある奈良時代の碑文「多賀城碑」が国宝に指定。また、6件が重要文化財となった「工芸品の部」では、海野勝珉による明治工芸や室町時代の小袖裂幡などが指定されている。加えて「歴史資料の部」では、江戸時代の飛脚問屋の記録である『飛脚問屋井野口屋記録』など2件が重要文化財となった。
新たな国宝や重要文化財を一挙に知ることができる本展。最新の文化財の研究成果を知る機会にもなるだろう。