展覧会タイトルをご覧になったあなたは「なあんだ国宝じゃないのか、パス」と思われるかもしれない。昨秋、東京国立博物館で「国宝展」(特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」 )を堪能したからもういいや、と思うかもしれない。そんな理由で見過ごそうとしているなら、以下の一文にお付き合いいただいて再考してほしい。
企画者が言うのもおこがましいが、こんなクレイジーな展覧会はいままでにない。
本展は東京国立近代美術館の開館70周年を記念して、明治以降の絵画・彫刻・工芸のうち重要文化財に指定されている作品51点を集めた展覧会である。
……それだけでは、先述した東京国立博物館での展示における「国宝89点」に、質も量も及ばないかもしれない。しかし、次のように数字を補足してみるとどうだろう。2023年3月時点で、国宝に指定されている美術・工芸品は906件、重要文化財は9966件である。これを「明治以降」に限ってみると、国宝はゼロ。重要文化財は68件まで絞られる。今回はその68件のうち、51点が集まるのである(会期中、一部展示替えあり)。
これだけの数の作品が集まること自体が奇蹟である。上述の通り明治以降の絵画・彫刻・工芸にはまだ国宝がないので、各所蔵者は重要文化財を国宝並みに大切に扱っているから、そうそう簡単には貸してくれない(だから今回出品を快諾してくださった各所蔵者の方々にはいくら感謝しても足りない)。近代日本美術に関心のある方ならもちろん、あまりなじみのなかった方にもぜひおすすめしたい、名作ぞろいの展覧会なのである。
……というようなセールストークを並べているだけでは、美術手帖の読者諸氏はさっさと次のページに飛んでしまうだろうか。否、本展はただの名作展にとどまらない。
上記のセールストークをひっくり返すような言い方になるが、本展は重要文化財だからといって無批判にありがたがるのではなく、「なぜ、これが重要文化財なの?」と考えてもらうことを真のねらいとして企画されている。だいたい近代日本美術でいくら「名作です!」といっても、一般のみなさんの近代日本美術そのものへの関心が、近年だんだん低下しているのではないかという危惧が、美術館の現場にいると切実に感じられるのだ。美術手帖の読者諸氏の多くも、どちらかというと西洋美術か、日本でも古いほう、あるいはもちろん現代の美術に、より関心があるに違いない。
近代日本美術は、それらの分野のはざまにあって、なんとなく地味で面白くなさそう、と遠ざけられてはいないだろうか。否、否、近代日本美術はそうしたはざまにあるからこそ、面白いのである、ということを、本展では重要文化財という最上の素材によって訴えようというわけだ。