鳥取の新たなアート・ディスティネーションとして外せないスポットが倉吉市に誕生した。創業70年以上の歴史を持つ業務用品商社・株式会社丸十が開館させたアート格納庫Mだ。
倉吉は20世紀を通じて民藝運動が発展し根付いた街だが、少子高齢化が進んでおり、地域文化の継承が課題となっている。こうした状況のなか、丸十CEOでアートコレクターでもあるオーナー・岡野稔氏が、アートによる地域活性化と若手作家支援を目指し、この場所を設立した。
アート格納庫Mの建築は、同社に隣接する既存の空き倉庫を改修したもので、目玉は原口典之(1946〜2020)の巨大作品の常設展示だ。
原口は日本を代表するアーティストのひとりであり、「もの派」の代表的な作家として語られることも多い。77年にドクメンタ6(ドイツ、カッセル)で日本人作家として初めて選出され、巨大な鉄の枠組みの中を廃油で満たした出品作《オイルプール》で一躍注目を集める存在となった。また原口は一時期、倉吉に拠点を持ち、活動していたこともある。
常設展示されているのは、原口の《Oil and Water》(2003)と《Untitled FCS》(1990)の2作品。ともに倉吉出身のアートコレクターの所蔵品だという。
《Oil and Water》は、「オイルプール」シリーズのひとつ。真っ黒な廃油と水で満たされた2つの大きなパーツから成り立ち、廃油と水の物質的な差異が際立っている。
いっぽうの《Untitled FCS》は、1990年に幕張メッセで開催された「PHARMAKON ‘90」で初めて発表されたもので、2020年には鳥取県立博物館で約30年ぶりに展示された来歴を持つ。巨大なH鋼がサイロのような建物の中に垂直に屹立しており、オイルプールの水平方向の重量とは反対に、垂直方向への圧倒的な存在感を示している。
館内にはこの2作品を中心に、企画展示スペース、そしてオーナーのコレクションを展示するコレクションルームも設置。若手アーティストや地元にゆかりのあるアート作品を中心に展示・販売を行っていく。
また同館は今後、街中にもアート事業を展開することも見据えており、アートによる地域のさらなる活性化も見据えているという。既存の民藝美術館や鳥取県立博物館、そして25年春に開館する鳥取県立美術館とともに、鳥取のアート・ツーリズムに欠かせないスポットになるだろう。