アーティストとギャラリーは、伝統的なアート業界において、切っても切り離せぬ関係にある。両者の関係が良好なうちはよいが、利害が対立して紛争に発展することもしばしばあるのが現実だ。
今回紹介するのは、アキライケダギャラリー(原告)がアーティスト・原口典之(この訴訟提起後に亡くなったため遺族が被告として訴訟を承継した)に対し、先行した裁判で和解した際の和解条項に違反する行為があったと主張して争われた珍しい事件である。
原告の請求金額2億2710万円に対して、東京地裁は2作品について和解条項違反を認め、アーティスト遺族に対し400万円の支払いを命じた(*)。
先行した裁判の概要
まず、先行した裁判の内容を確認しておこう。
原告と原口典之(以下「アーティスト」という)との間には1980年から1991年までアーティスト制作の作品を原告が独占的に買い取り、管理をすることなどを内容とする独占契約が存在し、91年以降も契約書はなかったもののアーティスト制作の作品を納入する関係が継続していた。
ドイツのレンバッハハウス市立美術館は、2001年4月28日からアーティストの展覧会を開催し、その際、原告の関与のもとでアーティストのカタログ・レゾネが制作され、その作品309点が収録された。
その後、原告とアーティストとの契約関係は終了した。
原告は、2015年9月25日、アーティストに対し、画廊1(筆者注:ファーガス・マカフリー)が販売活動を担当し、作品明細に「1970/2015」と表記されている作品《Wire Rope》を廃棄し、作品明細から「1970/」との記載を削除することなどを求める訴訟(以下「前訴」という)を提起した。
《Wire Rope》は、画廊1の階段の下に、既成の工業製品であるワイヤーロープ1本を固定したものだが、カタログ・レゾネには、これと同様に大学の教室にワイヤーロープ1本を固定した作品が、「1970」との年代表記で掲載されていた。
原告は、前訴で、アーティストの作品には、完成後に保管場所などの関係で廃棄され、後に「原作品を再現した真作としての再制作品」が制作されるものがあるため、《Wire Rope》の「1970/2015」という表記は、1970年に制作された原作品を2015年に再制作したことを意味するが、原告は、独占契約に基づき、「再制作を行う権利」も含め、原作品の著作権の譲渡を受けていることなどを主張したのだ。
その後、原告とアーティストは、2016年9月2日、和解を成立させ前訴は終了した。