フランシス真悟「Exploring Color and Space-色と空間を冒険する」(茅ヶ崎市美術館)開幕レポート。色彩と線と光を浴びる

美術家・フランシス真悟の国内初となる大規模個展「Exploring Color and Space-色と空間を冒険する」が、神奈川の茅ヶ崎市美術館で開幕した。会期は6月9日まで。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、《「Bound for Eternity(magnetablue)》(2009)

 ロサンゼルスと鎌倉を拠点に、世界で作品を発表し続けている美術家・フランシス真悟。その国内初となる大規模個展「Exploring Color and Space-色と空間を冒険する」が、神奈川の茅ヶ崎市美術館で開幕した。会期は6月9日まで。

展示風景より、第5章「Daily Drawing ディリー ドローイング」

 フランシス真悟はアメリカ・サンタモニカ生まれ。父はアメリカの抽象表現主義の巨匠、サム・フランシス、母はメディア・アーティストの出光真子という環境で育った。若い頃にライト&スペース・アートのジェームズ・タレルや抽象表現主義のジョアン・ミッチェルと出会い、大きな影響を受けたという。本展では、フランシスの1980年代の初期からの多様な絵画作品、約100点が一堂に会しており、全6章にプロローグとエピローグを加えたかたちで構成されている。

フランシス真悟

 第1章「Infinite Space インフィニット スペース|無限の空間」では、色彩そのものを絵画の主題としたシリーズ「Infinite Space」を展示する。15〜20層の半透明の油絵具を重ねて制作された色彩面が、画面上に奥行きの錯覚をもたらす絵画は、平面ながらもどこまでも続くような空間をつくり出している。

展示風景より、第1章「Infinite Space インフィニット スペース|無限の空間」
展示風景より、《Infinite Space(scarlet-yellow)》(2017-18)

 第2章「Interference インターフェアレンス」は、第1章と展示室を同じにするが、天窓があり自然光が入る展示室の構造を生かした展示が行われている。壁面に展示された作品には反射性のある素材を用いられており、光と色の動きにより変化する。天候や時刻によって様々な表情を見せる天窓の光と呼応して、作品は複雑な色彩を生み出し空間を満たす

展示風景より、《Phases of Transformation》(2023-24)

 第3章「Into Space イントゥ スペース|空間の中へ」で展示されている「Into Space」シリーズは、ニューヨークのスタジオで04年に制作を始めたものだ。細い線を様々な色で幾度も重ねていくことにより制作されたシリーズで、フランシスは一つひとつの線に自分の感情を載せていったという。

展示風景より、第3章「Into Space イントゥ スペース|空間の中へ」
展示風景より、左から《Flight to Midlight(部分)》、《Spiral Light(部分)》(ともに2023)

 第4章「Blue's Silence ブルー サイレンス|青の静けさ」では、「Blue's Silence」シリーズを展示。フランシスは00年にカリフォルニアから日本に帰国した直後より、使用する色を青に絞った、シンプルな絵画に取り組んだ。フランシスは青を、空間を表す色としてとらえていると語る。展示室壁面に並べることで、青のコンポジションと色調の段階的な変化を見るものに印象づける。

展示風景より、第4章「Blue's Silence ブルー サイレンス|青の静けさ」

  第5章「Daily Drawing ディリー ドローイング」は、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、フランシスが自宅で描き続けてきた作品群を展示。現在を表現するためにフランシスが描いた大小の絵画作品は、制作日とその日の体験にまつわる言葉が、それぞれのタイトルとしてつけられている。

展示風景より、第5章「Daily Drawing ディリー ドローイング」
展示風景より、第5章「Daily Drawing ディリー ドローイング」

 第6章「Bound for Eternity バウンド フォー エタニティ 永遠へ向かう」では、フランシスが05年より開始したドローイングシリーズ「Bound for Eternity」のひとつ、《「Bound for Eternity(magnetablue)》(2009)を展示する。人々が人生の出来事にどう対処し、解釈していくかという興味から生まれたという本作。円形のフォルムが時間と空間の無限性を、画面中心に描かれた線が人々のこれまでの経験と現在体験している出来事の両方を表しているという。空間のなかで描かれた無数の線をたどっていくと、次第に作品に入り込むような感覚が生まれていく。

展示風景より、《「Bound for Eternity(magnetablue)》(2009)

 光と色をその場に留めるかのような試みを続けてきたフランシス。その創作に対する情熱を数多くの作品で体感できる、希少な機会となっている。

編集部

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