東京・渋谷にある渋⾕スクランブルスクエアの展望施設「SHIBUYA SKY」で、美術家・中﨑透(1976〜)の企画展「Ding-dong, ding-dong 〜Bells ringing at the bottom of the valley〜」がスタートした。会期は3月31日まで。
茨城県水戸市を拠点に活動する中﨑は、言葉やイメージといった共通認識のなかに生じるズレをテーマに、看板をモチーフとした作品や、パフォーマンス、映像、インスタレーションなど、様々な形式で制作を展開してきた。本展はSHIBUYA SKYで定期開催される「SKY GALLERY EXHIBITION SERIES」の一環となる企画展。共通テーマに「視点を拡げる」を掲げ、アーティストが本施設から受けたインスピレーションをもとにオリジナル作品を制作し、展示するというものだ。
中﨑は本展のコンセプトを次のように語った。「このSKY GALLERYに初めて来たとき、東京を一望できることに驚いた。そこから、渋谷にまつわる3名の人物にインタビューし、それらのエピソードをベースに自分の表現とミックスするかたちで作品へと落とし込んでいる。この渋谷という地で自らの生業に励む人々が、谷底で鳴り響く鐘のようだと感じた。インタビュー対象の3名は、自分らしさのために自身を貫いているような人たちで、渋谷にはそれを許容する土壌があると感じている。このギャラリーで街を俯瞰しながら、そこに存在する一つひとつの物語を紹介できたらと考えている」。
会場には、中﨑がインタビューした3名による個人史、そして渋谷にまつわるエピソードが関連物とともにインスタレーション形式で展示されている。例えば、渋谷で90年代からオリジナルベルボトム専門店を営む津田幸英は、ベルボトムにまつわる歴史や、自身がベルボトムに惹かれ店を開業した経緯、そして現在の関心ごとなどについてを語っている。
渋谷の都市開発に携わってきた横山和理は、渋谷の土地やその開発における歴史、さらに渋谷のイメージ戦略や世間的な流行の変遷についても語っている。中﨑は、それにまつわる写真やオリジナルの看板などを制作・展示している。
岡山の高校を卒業後に上京し、文化服装学院を経てモデルとなった筒井香菜は、渋谷での友人たちとの出会いや、テクノ音楽との出会い、そして渋谷ならではのカルチャーを20代の視点から紹介している。とくにこの地で知り合った海外の友人たちをきっかけに、海外旅行に行ったり英語が話せるようになったという筒井。筒井にとっては、渋谷が世界と自身をつなぐきっかけの場所となっているのだ。
中﨑はこれらのエピソードを編集し、この多面的な渋谷のすがたを、会場に実体を用いて再構成させている。鑑賞者はこの回遊型のギャラリーで、各人のエピソードに出会いながら、渋谷の街を一望することも可能だ。マクロとミクロの視点を交錯させながら同地について新たな気づきを得ることができる点が展示の意義とも言えるだろう。
なお会期中には、本展の開催を記念したトークイベントも実施。本展のグラフィックデザインを担当したデザイナー・長嶋りかこと中﨑、同施設のブランディングディレクターの有國恵介による開催の裏話も聞くことができるため、関心があればこちらもチェックしてほしい。