「渋谷スクランブルスクエア」の46階にある屋内展望回廊「SKY GALLERY」で、アートチーム・SIDE COREがキュレーションする展覧会、EVERYDAY HOLIDAY SQUAD SOLO EXHIBITION 「DOWN TO TOWN」がスタートした。
SIDE COREは、高須咲恵、松下徹、西広太志によるアートコレクティブ。ストリートカルチャーの視点から公共空間を舞台にしたプロジェクトを展開し、野外での立体作品や壁画プロジェクトなど様々なメディアを用いた作品を発表してきた。昨年開催された「水の波紋」(ワタリウム美術館、東京)や「under pressure」(国際芸術センター青森、青森)、「Alternative Kyoto」(京都)などにも参加し、大きな注目を集めている。
本展は、SIDE COREがともに活動する匿名アーティストグループ・EVERYDAY HOLIDAY SQUAD(エブリデイ・ホリデイ・スクワッド)による個展。「視点を拡げる」をテーマに掲げたSKY GALLERYから、過去や現在という時間軸を提示しながら、渋谷という重層的に歴史が重なり合う街に注目する。
展覧会の入口付近では、絵画作品《down to town》が展示。渋谷の街に設置される看板をベースに、その上から絵や文字などを描いたり消したりを繰り返すことで描かれており、街にある時間の変化を絵として表現している。
隣の壁には、棚のかたちにした立体作品《stranger’s storage》が飾られている。一見棚のなかに様々なオブジェや絵が置かれた作品に見えるが、それぞれの作品は宇田川町や道玄坂など渋谷の街の地図のかたちとなっており、なかには渋谷で撮影した写真などこの場所での記憶や感情にまつわるものが入れられている。
本展では地図が大きなテーマとなっている。最初の絵画作品は、町内看板にある地図が抽象的なイメージとして描かれているいっぽうで、この立体作品はEVERYDAY HOLIDAY SQUADの記憶の地図とも言える。
次に出現したのは、マルチメディア作品《rode work(ver.tokyo) 2018(re-edit 2022)》だ。2017年に宮城県石巻市で発表された「rode work」シリーズの2作目となるこの作品では、工事現場作業員に扮したスケーターたちが都内各所を疾走し、街のなかに夜間工事現場を模したスケートパークをつくりだす映像が流されている。
映像に登場した点滅式の夜間工事用ライトは、その信号が福島に設置されたアンテナから発信されており、都内で点滅しているライトはすべて福島のライトの点滅に同期。また、夜になると映像中にあるライトの点滅は、SKY GALLERYから眺めた東京の夜景のライトとシンクロしているという。
展覧会の最後では、EVERYDAY HOLIDAY SQUADが描き直した渋谷の街のガイドマップ的な作品《river diver map》が展示。本作は、通常の刊行ガイドマップではなく、渋谷にあるストリートアートを軸にアーティスト独自の視点で街を紹介するもの。また、地図には渋谷に流れる2本の暗渠が描かれており、街の見えない歴史を表している。
作品の一端には、鑑賞者が持って帰ることができる縮小版の地図が置かれており、もう片側には等身大のネズミの人形が佇んでいる。前述の地図のほか、本展にはネズミのモチーフも多く登場している。
フランスのレジスタンスにおいてナチスドイツに抵抗する人々を表し、5月革命においても民主化を求める学生たちの象徴だったネズミは、アーティスト自身のポートレートであり、また高所から見た街に暮らす人々の象徴でもある。ネズミのアイコンは、バンクシーなどストリートアーティストの作品に繰り返し出現しており、このような歴史性にも基づいている。
《river diver map》に設置されたネズミの人形のほか、本展の会場外でも2つのネズミの人形が置かれている。SKY GALLERYの2ヶ所にある望遠鏡を覗くと、渋谷の街にある建物の屋上に存在するネズミの人形を見ることができる。アーティストが着ていた作業服を身に着けているネズミを望遠鏡で覗くことは、同時に私たちも遠くから覗かれているという視点の相互性を表している。
再開発が進み、毎日景色が変わりつつある渋谷の街。渋谷最高峰に位置する施設から、都市空間における表現をつねに拡張し続けるSIDE COREが提示した新たな街との関わり方をぜひ会場で堪能してほしい。