東京・初台の東京オペラシティ アートギャラリーで「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」が開幕した。会期は3月24日まで。
本展はガラス作家・山野アンダーソン陽子の作品を収録したアートブックを制作するプロジェクトの一環として開催されている。まず、山野が声をかけた18人の画家が、それぞれの画家が自身が描きたいと思うガラス作品を言葉で表現。その言葉に応答するかたちで山野がガラス作品を制作し、そのガラス作品を画家が描くというものだ。さらに、できあがった絵画と山野のガラス作品を写真家・三部正博が撮影、さらにデザイナー・須山悠里のデザインによりアートブックがつくられている。本展では、この制作プロジェクトのなかで生まれたガラス作品、絵画作品、そして山野の言葉などによって構成されるものだ。
本展に参加した画家はアンナ・ビヤルゲル、アンナ・カムネー、イルヴァ・カールグレン、イェンス・フェンゲ、カール・ハムウド、CM・ルンドベリ、ニクラス・ホルムグレン、マリーア・ノルディン、レベッカ・トレンス、石田淳一、伊庭靖子、小笠原美環、木村彩子、クサナギシンペイ、小林且典、田幡浩一、八重樫ゆい。
展覧会の冒頭で来場者を迎えるのは、アンナ・ビヤルゲルの静物画だ。牛乳を湛えた山野のガラスコップが描かれ、ガラスを透過した柔らかな光が四方に広がっている。ガラスという素材の絵画のモチーフとしての面白さが端的に感じられる作品であると同時に、静物画の表現の豊かさを垣間見ることができる。
絵画に描かれたガラス作品を実際の作品と見比べる、という体験ができるのも本展の特徴だ。画家は目の前のガラスをどのように解釈し、ときにデフォルメをしながら平面に落とし込んでいったのか、その過程を想像してみたい。
同様のことは三部による写真にも言える。モノクロ写真という陰影が際立つ表現は、実物のガラスの持つ光の豊かさをより強調して伝えており、絵画とはまた異なる解釈が生まれていることがわかる。
作品とともに添えられた山野の言葉もまた、ガラスを語るうえで雄弁だ。たんなる作品解説ではなく、行間のなかに光を折り込むような、ガラス職人ならではの言葉の息遣いを感じることができる。
本展について山野は次のように語った。「職人なので用途を持ったガラス作品をつくることが多いが、今回は作家の個に注目し、その個を表現することに集中できた。私のガラス作品を、画家がそれぞれの作品のなかで発展させたこともとてもおもしろく、その関係性そのものが作品のようで興味深かった。本プロジェクトはアートブックをつくることが目的だったが、展覧会はガラス食器という素材について、様々な手法によって、観客とともに考える機会になっていると思う」。
ガラス作品の表現の豊かさや、作家に与えるイマジネーションを改めて考えるとともに、素材や手法は違えど、ものをつくるという行為に共通するものを探りつつ、思考を加速させることができる展覧会となっている。