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創造と生成のはざまに生まれるシナジーを掬い上げる。MOTアニュアル2023が問いかけるものとは何か

東京都現代美術館で「MOTアニュアル2023 シナジー、創造と生成のあいだ」がスタート。第19回目の開催となる本展では、「アナログ(創造)」と「デジタル(生成)」の二項対立的な関係性を見直し、そのはざまだからこそ生み出される効果に着目するものとなる。会期は2024年3月3日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、やんツー《TEFCO vol.2 〜アンダーコントロール〜》(2023)

 東京都現代美術館で「MOTアニュアル2023 シナジー、創造と生成のあいだ」がスタートした。企画担当は森山朋絵(東京都現代美術館 学芸員)。

 今年で第19回目の開催となるMOTアニュアル。タイトルにある「創造と生成」はそれぞれ「アナログ」「デジタル」を指しており、アーティストらの想像力や手仕事による「創造」と、昨今社会的にも注目されている人工知能やNFTなど、その有り様を反映して生まれる「生成」のあいだに生まれるものに注目するのが本展の開催意図と言える。企画を担当した森山はこう語る。「アナログとデジタルは二項対立のように言われがちだが、その在り方を見直していきたい。そのあいだ生まれるシナジーや相乗効果に注目することで、人々の感覚を拡張していくきっかけになるのではないか」。

 参加作家は、荒井美波、後藤映則、(euglena)、Unexistence Gallery(原田郁/平田尚也/藤倉麻子/やんツー)、やんツー、花形槙、菅野創+加藤明洋+綿貫岳海、Zombie Zoo Keeper、石川将也/杉原寛/中路景暁/キャンベル・アルジェンジオ/武井祥平、市原えつこ、友沢こたお。

 会場には11組の作家らによる約50点の作品を展示。そのなかから、いくつか抜粋して紹介する。

 アーティストの荒井美波(1990〜)は、スマートフォンやPCなどの普及に伴い起きた「文字を書く」という行為の変化に着目し、筆跡を針金で書き順通りに立体化する作品を発表してきた。会場では、太宰治や夏目漱石などの文学者の直筆原稿を立体化。iPhoneのフリック入力で打たれた文章も合わせて展示することで、手わざとデジタルの往来に焦点を当てている。

展示風景より、荒井美波《太宰治 『人間失格』》(2012)
展示風景より

 原初的な映像メディアと現代のテクノロジーを行き来しながら、動きや時間といった目に見えない事象とデジタルの関係性に着目した作品を発表する後藤映則(1984〜)は、会場に4点の作品を展示。3Dプリンターと光によって生み出される人型オブジェの滑らかな動きは、フィジカルとデジタルのあいだを縦横無尽に行き来しているようでもある。屋外には大型彫刻も設置されており、昼夜で変わる見え方にも注目したい。

展示風景より、後藤映則《Heading #01》(2020) 
展示風景より、後藤映則《Heading》(2022)

 「無垢に自身を再認識する」をコンセプトに作品発表を行うアーティストの(euglena)は、タンポポの綿毛を用いて、人工的な動力に頼らないインタラクティブ作品を制作。生命の持つ独自のタイムラインにフォーカスしたシリーズだ。

 (euglena) によるこれらの作品は、第22回文化庁メディア芸術祭アート部門で新人賞を受賞しており、森山はこれに関して「この作品が受賞したことが、メディア芸術領域の成熟を感じるきっかけとなった」と語っている。

(euglena) watage20210101 aloof6 2021 画像提供=(euglena)

 コロナ禍によりインフラとして発達した通信技術は、人々のコミュニケーションに対する価値観にも大きな影響を与えたことだろう。そのような社会状況で生まれた「Unexistence Gallery」は、ネットワーク上に存在する実物を持たないアートギャラリーだ。原田郁/平田尚也/藤倉麻子/やんツーによる本展での壁面展示は、コンピューター演算でネットワーク上に出力されたもの。このオンライン上で観覧できるものを平面作品として実際の壁に展示することで、その実態がどこにあるのかを問うものとなっている。

展示風景より、Unexistence Gallery (原田郁/平田尚也/藤倉麻子/やんツー)《今日の新しい実存》(2023)

 やんツーは個人の作品も発表している。会場には「発電」をテーマとした大型重力発電装置のインスタレーションが展示されており、ボタンを押すことでバイクが持ち上がり、鑑賞者の目の前で発電が行われるというものだ。屋外に設置されたソーラーパネルと合わせて発生した電力で、周囲に展示されている作品を動かしており、美術館のなかで自給自足での展示を実現している。発電された電力でスマートフォンを充電できるなど、お裾分けもしてもらえるのも嬉しいポイントだ。

展示風景より、やんツー《TEFCO vol.2 〜アンダーコントロール〜》(2023)
展示風景より、やんツー《TEFCO vol.2 〜アンダーコントロール〜》(2023)

 石川将也/杉原寛/中路景暁/キャンベル・アルジェンジオ/武井祥平による《四角が行く》(2021)は、次々と現れるゲートを四角自体が動きながら、協力してくぐっていくといった作品だ。無機質な四角が自らの意志で動く不可思議さに加えて、その様子があたかも無意識にルールに従ってしまう人間社会を示すようでもあり、鑑賞者に様々な感情を思い起こさせる作品であると言えるだろう。一見ストップモーションアニメのような本作は実際に目の前で行われている動きであり、この技術力も注目ポイントだ。

展示風景より、石川将也/杉原寛/中路景暁/キャンベル・アルジェンジオ/武井祥平《四角が行く》(2021)

 ほかにも、NFTアートプロジェクトで話題となったZombie Zoo Keeper(2012〜)による作品も展示されている。8歳の夏休みに自由研究として母親と制作した「Zombie Zoo」(2021)は国際的な注目を集めている。本展では新作とともに、初公開となるメタバースプロジェクト《Zombie Zoo Rescue》(2023)も体験することが可能だ。

展示風景より、Zombie Zoo Keeper《Zombie Zoo Collection》(2021)

 なお、本展の参加アーティストらへ投げかけられた「あなたにとって『創造と生成のあいだとは何か』」「『創造と生成のあいだ』について思うこと」という問いの回答は、各会場キャプションに掲載されている。本展への参加に臨んだアーティストらが何を考え、作品を通じてどんなアプローチをしているのか。それを知るための足掛かりとなってくれるだろう。

編集部

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