併合と大地震を経て。旧ソ連時代の影響を色濃く残すウズベキスタンの首都・タシケント
中央アジアに位置するウズベキスタンは、かつて中国と地中海を結ぶ交易路シルクロードの要所として栄えた国だ。オアシス都市のサマルカンドやブラハには美しい青が印象的なモスクや霊廟などが残り、観光客も数多く訪れる人気スポットとして知られている。いっぽうウズベキスタンの首都であり、中央アジア最大の都市でもあるタシケントも歴史ある土地ではあるが、周囲の王朝や政権の攻防に晒され、歴史的建造物はあまり見られない。20世紀初頭には旧ソビエト連邦の構成国となり、1991年のソ連解体の際には「ウズベキスタン共和国」として独立を果たした。
現在そのタシケントでは、ウズベキスタン芸術文化開発財団(以下、ACDF)による「ウズベキスタンの建築遺産の研究と保存プロジェクト」が進行している。1966年に大地震に見舞われた同地は旧ソ連の建築家らによって同国のモデル都市として再建された経緯があり、その際にはイスラム文化や地元の風土を反映した独自のモダニズム建築が誕生した。同プロジェクトは歴史的に重要であるにも関わらず、失われつつあるこれらの建築遺産を保存・発信するものであり、10月18日、19日にはトレイルツアーやカンファレンスも実施された。なお、本レポートには現地のACDFメンバーや篠原祐馬氏(スイス建築博物館キュレーター)の多大なる協力があったことをここに感謝申し上げたい。
タシケントのモダニズム建築をめぐる
タシケントのなかでも、旧ソ連の影響を残す施設や公共空間をいくつか紹介したい。
中央アジア最古の博物館と言われる「ウズベキスタン国立歴史博物館」は、かつてロシア帝国の軍政機関が置かれていた場所であり、旧ソ連時代にはロシアにあるレーニン博物館の分館として活用されていた。内部に設置されていたというレーニン像は現在撤去されており、考古学、民俗学、歴史学などウズベキスタンの歴史を伝える様々な文化財が収蔵されている。直射日光を防ぐためのファサードの模様はウズベキスタンの文化に基づくデザインが取り入れられている。
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10分ほど歩くと、1974年に設立された中央展示ホールが見えてくる。設立当初からアートギャラリーとして活用されてきたこの建物は、現在ウズベキスタン芸術家連合のメンバーらの展示が行われている。外観の模様はウズベキスタンが名産でもあるコットンの花をイメージしてつくられており、屏風のような折りを感じさせる造形がユニークな建築物だ。
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ウズベキスタンにはマハラという街並みが見られ、小さい広場の周りに家をつくるという特徴を持つ行政区画システムが存在する。ゼムチュク住宅は、その特徴をマンションのかたちで1985年に再現した、建築家Ophelia Aidinovaによる実験的な試みだ。これはマハラで生活する人々の移住計画と高さのある近代建築を実現しようとした旧ソ連による思惑が背景となっている。
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16階建てのこのマンションには5つの中庭が3階ごとに設置されており、マハラに見られるような伝統的なコミュニティのあり方を再現しようとしている。当時住民からは不人気で、かつ技術的なノウハウ不足もあり膨大な建設費用がかかってしまったようだ。
しかし、中庭ごとに住民のニーズに合わせた工夫や遊び心(花壇や壁面アートなど)が垣間見えるのは面白く、現在は住人以外にも地元のアーティストなどが入居し、創造の場として活用されているケースも見受けられる。建築家が実験的な試みをしたように、使用する人々も創意工夫を巡らせながら活用しているという点では興味深い空間であると言えるだろう。
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タシケントでも見どころと言えるのは、美しいデザインが施された地下鉄構内だろう。1966年の大地震を経て77年に復興された地下鉄は、民衆へのギフトとして旧ソ連政府によって絢爛なものへと生まれ変わった。例えばKosmonavtlar(Cosmonauts)駅は、旧ソ連の軍人で宇宙飛行士であったガガーリンをメインに、天の川や、ロケット発射の煙、宇宙飛行の歴史が12つの絵とともに語られている。
いっぽうでこの地下鉄構内は核シェルターとしての役割も持っている。安全上の理由から、この構内の写真撮影が可能となり、広く知られるようになったのはつい最近のことだという。
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ほかにも、アミールテムール広場のある中心地に位置するタシケントホテルやパルク・フ・タシケンテという公園内にあるレストランにも、ウズベキスタンに根付く文化や旧ソ連の影響を受けた様々な建築を街中で見ることができる。
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先時代からの建築遺産をどう活用・保存するのか
10月18日・19日には、ウズベキスタン国立美術館で第1回カンファレンス「Where in the World Is Tashkent(タシケントは一体どこにあるのか)」が開催された。自国の建築遺産をどのように保存し、伝えていくことができるのか、世界各国から集まった建築関係者が登壇し、自国ならではの取り組みを共有する機会となった。
また初日には、オランダ・ロッテルダム出身の世界的な建築家レム・コールハースによる基調講演も実施され、地元の学生を含む数多くの建築関係者が会場に駆けつけ盛り上がりを見せていた。
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ほかにも会場では、タシケントに現存する近代建築の文化的、社会的、芸術的な側面を改めて紐解き、写真やアーカイヴ資料を用いて紹介する展示「Tashkent Modernism. Index」も開催。タシケントの街並みや建築を描いた絵画作品などもあわせて展示されており、都市空間の変遷やそのなかで生きる人々の営みも見えてくるようであった。
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なお、今後推進されると思われるウズベキスタン国立美術館の増改築には、建築家・安藤忠雄が携わっており、2019年には同国のシャフカト・ミルジヨエフ大統領にその開発コンセプトを語っている。今後の行方に注目したいところだ。
President Shavkat Mirziyoyev gets a view of the proposals by the celebrated Japanese architect Tadao Ando for the development concept of the State Museum of Arts of Uzbekistan, shares his vision of the project. pic.twitter.com/rjMjf3udjq
— Shavkat Mirziyoyev's Press-service (@president_uz) December 19, 2019