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モトーラ世理奈が見る「オラファー・エリアソン」展。サステナブルな未来への視点

モデル・女優として活躍するモトーラ世理奈が、『美術手帖』6月号「新しいエコロジー」特集の表紙巻頭ヴィジュアルに登場。撮影が行われた「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展や、主演を務めた映画『風の電話』について語ったインタビューとともに、アザーカットをお届けする。

聞き手・文=編集部

「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展(東京都現代美術館)より《おそれてる?》(2004)Kunstmuseum Wolfsburg, Germany © 2004 Olafur Eliasson撮影=田中雅也(TRON) スタイリスト=樋口麻里江(TRON) ヘアメイク=斎藤紅葉(eek)

「オラファーさんの作品がすごく好きになりました。スタジオはベルリンにあるんですよね。いつか行ってみたいなと思いました」。

 東京都現代美術館で開催予定(*)の「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」は、国際的に活躍するエリアソンが、初めて「気候変動」をテーマに掲げた個展だ。
 
 『美術手帖』6月号(5月7日発売)の特集「新しいエコロジー」では、表紙巻頭で本展の世界観を伝えるフォトセッションを敢行。モデルとして登場するのは、近年女優としても高い評価を受けるモトーラ世理奈だ。

 エリアソンは、6月号に掲載されるインタビューのなかで、東日本大震災にまつわるエピソードとして、「風の電話」というプロジェクトに言及している。それは震災後に岩手県上閉伊郡大槌町に設置された私設の電話ボックスから、電話線のつながっていない電話を通して、来訪者が亡き人に思いを伝えることができるというもの。「天国につながる電話」として広まり、3万人以上の人々がこの場所を訪れたという。

 この電話をモチーフにした映画『風の電話』(2020)で、モトーラは震災で家族を亡くした主人公・ハルを演じた。諏訪敦彦監督による本作は、第70回ベルリン国際映画祭で「ジェネレーション 14プラス部門」国際審査員特別賞を受賞した。

 本作への出演を経て感じた、サステナブルな視点を持つことの重要性やエコロジーへの意識、そしてオラファー・エリアソンの作品から感じたことについて、撮影後に話を聞いた。

「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展(東京都現代美術館)より、左から《あなたの移ろう氷河の形態学(過去)》《メタンの問題》《あなたの移ろう氷河の形態学(未来)》(すべて2019)
Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles © 2019 Olafur Eliasson
撮影=田中雅也(TRON) スタイリスト=樋口麻里江(TRON) ヘアメイク=斎藤紅葉(eek)

記憶を呼び起こす色と光

──オラファー・エリアソンは、自然現象を作品に取り込み、観る者の知覚に新鮮な驚きを与える作品で知られています。今回の個展でも、水や太陽光、虹などが作品のモチーフになっていましたね。撮影を通して、本展をどのようにご覧になりましたか?

 自然のなかで感じる光の美しさや、不思議さ、神秘的な感触を、展示から受け取ることができました。例えば山へ行くと、霧が出ているときにだけ感じられる匂いや景色、色というものがありますよね。その一瞬の感覚をかたちにすることはとても難しいと思います。でも、オラファーさんの作品には、その感覚がそのまま生かされていました。

 私は東京で育ちましたが、自然が美しい場所へ行くことはとても好きです。まだ幼かったときから、その時々の記憶を色によって覚えていることが多いんです。例えば幼稚園生のときに「あそこに行ったよね?」と人に言われたら、「あのピンクのところ?」って答えたりするくらい。いろんな場所の記憶が、色のイメージと強く結びついているんです。

 なので、色や光を用いたオラファーさんの作品を見ていると、私の過去の記憶とつながって、それらが呼び起こされるような気がしました。《サステナビリティの研究室》にも、様々な色の要素があって、とてもおもしろかったです。

​「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展より《サステナビリティの研究室》
Courtesy of the artist  Photo by Kazuo Fukunaga © 2020 Olafur Eliasson​ 写真提供=東京都現代美術館
​「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展より《サステナビリティの研究室》
Courtesy of the artist  © 2020 Olafur Eliasson​
撮影=田中雅也(TRON) スタイリスト=樋口麻里江(TRON) ヘアメイク=斎藤紅葉(eek)

──《サステナビリティの研究室》は、ベルリンにあるエリアソンのスタジオが近年取り組んでいるリサーチの一端を見せる展示です。サステナブルな生分解性の新素材や、リサイクル技術に関する研究について紹介されていました。エリアソンとエンジニアのフレデリック・オッテセンが開発した太陽光発電式LEDランプ「リトルサン」もこの展示室に置かれていて、モトーラさんが興味深くご覧になっていた姿が印象的でした。モトーラさんは、サステナビリティやエコロジーについて、日常的に考えていることはありますか?

 2月に仕事でニューヨークとロンドン、ベルリンへ行き、どの都市もサステナビリティに対する考えが日本よりも進んでいることに衝撃を受けました。ニューヨークの撮影現場にはペットボトルが一切置いてなくて、みんな自分のボトルを持っていました。そういった意識の違いを感じて、私も自分の水筒を持ち歩くようになりました。小さなことではありますが、環境に配慮して自分でもできることは、ちょっとずつやっていきたいなと思います。昔使っていた服やものを、また別のものにつくり変えてみる、ということも面白そうです。

立ち止まって考えてみること

──モトーラさんは東日本大震災後の岩手県を舞台にした映画『風の電話』に主演されましたね。震災や津波は、私たちに「環境」について再考させる大きな出来事だったと思います。モトーラさんはいま、震災の体験や自然環境についてどのように考えていますか?

「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展(東京都現代美術館)より《あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること》(2020)
Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles © 2020 Olafur Eliasson
撮影=田中雅也(TRON) スタイリスト=樋口麻里江(TRON) ヘアメイク=斎藤紅葉(eek)

 2011年に東日本大震災が起きたとき、私は12歳で小学校卒業直前でした。その後9年が経ち、私たちの世代は20歳前後になりました。たぶん、私より1〜2歳年下の人たちまでが、震災のことをギリギリ覚えている世代ではないかと思います。私も当時のことを覚えてはいるけれど、東京で生活していると忘れてしまうことも多いし、10代の頃は目の前にある学校の勉強や友達と遊ぶことに意識が向いていたように思います。

 今回『風の電話』に出演するにあたり、被災地へ行きました。すると、私はこの9年間でいろんな経験をしてきたのに、被災地にはまだあのときの風景が残ったままの場所があるということに気づき、ショックを受けました。

 いま私たちは大人になって、自分のやりたいことを自分で決められるようになりました。改めて震災と向き合うことで、何か動き出すことができる世代だと思います。新しいことばかりに目を向けるのではなく、もう一度これまでを振り返って、自分ができなかったことを、いまからやってみる。震災からもうすぐ10年が経とうとしているいまは、そういう視点を持つのにちょうどいい時だと思っています。サステナビリティという点からも、立ち止まって考えてみることは大事なのではないかな……と。

 第70回ベルリン国際映画祭では「ジェネレーション 14プラス部門」に出品されましたが、これは10代の子供たちが審査員を務める部門でした。プレミア上映では若い人たちがたくさん見に来てくれて、上映後は様々な人が質問をしてくれました。震災にまつわる記憶と経験の物語が、日本だけでなく世界中の人々にも伝わったと感じて、嬉しかったです。  

「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展(東京都現代美術館)より《ときに川は橋となる》(2020)
Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles © 2020 Olafur Eliasson
撮影=田中雅也(TRON) スタイリスト=樋口麻里江(TRON) ヘアメイク=斎藤紅葉(eek)


 環境や社会をよりよりかたちで未来へとつないでいくこと。そのために、いまを生きる私たちには何ができるのか。本展をはじめとするアートや映画といった文化・芸術は、このことについて考えるための、ひとつのきっかけを与えてくれるだろう。

*──「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」は開幕未定。詳細は東京都現代美術館の公式サイト(https://www.mot-art-museum.jp)をご確認ください。

『美術手帖』2020年6月号

編集部

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