お台場の街をアートで再確認。芸術祭「ARTBAY TOKYO アートフェスティバル2023」をめぐる

東京・お台場を舞台にした芸術祭「ARTBAY TOKYO アートフェスティバル2023〜CIRCULATION〜」が開幕。吉田山キュレーションの石毛健太、藤倉麻子、細井美裕、渡辺志桜里らが参加する展覧会など、お台場という土地を再考する企画がそろった。会期は9月24日まで。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より

 東京・お台場を舞台にした芸術祭「ARTBAY TOKYO アートフェスティバル2023〜CIRCULATION〜」が開幕した。会期は9月24日まで。

 開催エリアは、シンボルプロムナード公園内の「花の広場」「⽯と光の広場」「夢の広場」、テレビ朝日施設建設予定地、夢の大橋、BMW GROUP Tokyo Bay、⽇本科学未来館、ダイバーシティ東京 プラザの7エリア。

展示風景より、コンテナに描かれた下山健太郎《#002》(2023)

 本芸術祭の中心的な役割を果たすのが、りんかい線の国際展示場駅からほど近く、東京ビッグサイトを望む「石と光の広場」だ。ここでは、キュレーションを吉⽥⼭が、会場パビリオンの空間設計・施工を建築家コレクティブ「GROUP」と奥多摩美術研究所が担当し展覧会「Biotope Circles-生きるものたちの息づかいが聴こえる場所-」が開催されている。

展示風景より

 参加作家は石毛健太、藤倉麻子、細井美裕、渡辺志桜里の4人の作家と絵画展示作家14名(赤池奈津希、赤石隆明、赤羽史亮、加茂昂、櫻井崇史、佐塚真啓、下山健太郎、永畑智大、古屋崇久、松尾勘太、三熊 將嗣、村山悟郎、山本篤、和田昌宏)。本展に際して吉田山は次のように語った。「テーマである『CIRCULATION=循環』に沿って作品制作をしてきたアーティストを選んだ。コンテナをはじめとする広場の空間で作家が新作を披露し、絵画作品は屋外に展示するという形態をとっている。美術館とはまた違う美術体験をしてもらえれば」。

左から石毛健太、渡辺志桜里、吉田山、長場雄、井上岳(GROUP)、ダンサーの上西隆史

 石毛健太《intermodal garden》は、会場のコンテナの内部にお台場で採取した土を展開。ポリカーボネート製の窓から差し込んだ太陽光によって、土からは草木が発芽している。埋立地の土から植物が発生するという生命の循環がコンテナのなかで表現されている。

展示風景より、石毛健太《intermodal garden》

 藤倉麻子は《タイヤトラッカー達成“Fulfillment”への途上タイヤ》をビニールハウスの内部で展示。「達成」について興味を持つ藤倉は、畑の隅、駐車場、住宅の敷地内、庭などに転がっている自動車から外されたタイヤを、物流の達成途上にある存在として着目。これについての情報を集めるインフォメーションセンターをウェブ上で展開しつつ、タイヤや、音楽、そして到達できない山についての思いを馳せた映像作品と組み合わせた。

展示風景より、藤倉麻子《タイヤトラッカー達成“Fulfillment”への途上タイヤ》

 細井美裕の《ラリー・ショウ》は、コンテナ内部に入った観客に、音によって広い世界を「覗き見」させるような作品だ。世界中の海岸で採取されたという音がコンテナ内に充満しており、内部に入った観客は、お台場の海からつながっている世界中の土地について想像力をふくらませることができる。

展示風景より、細井美裕《ラリー・ショウ》

 渡辺志桜里《鳩を待つ⾷卓 A table waiting for pigeons》は、一見すると会場にただ停めてある軽自動車に見えるが、その屋根には鳩の餌が積まれている。この餌に集まってくる鳩が、開け放たれた車の窓から内部に入りこみ、車を人間の考える枠組みを超えた存在に昇華することが期待されている。

展示風景より、渡辺志桜里《鳩を待つ⾷卓 A table waiting for pigeons》

 さらに会場にはいくつものやぐらが建てられており、ここには絵画が展示されている。屋外に額もなくそのまま展示される14名の絵画は、新鮮な鑑賞体験を与えてくれる。

展示風景より

  「Biotope Circles-生きるものたちの息づかいが聴こえる場所-」の会場である「石と光の広場」に隣接する「花の広場」では、長場雄が初のAR作品《Everyday Life》を展示。会場には長場のアイコニックな人物像が描かれた白いふたつのキューブが設置されているが、ここに向けてスマートフォンをかざし、アプリケーションを起動するとVR空間で長場のイラストが自在に動き出す。

展示風景より、長場雄《Everyday Life》

 何度もこの広場に足を運んでリサーチしたという長場は「普段、作品を描くうえでモチーフにしている街の人々を、より生き生きとしたかたちで表現した」と語る。スマートフォンを持ちながら回転すれば、周囲の建物もVR空間に変化し、まるで自分が長場の作品の登場人物になったような体験をすることができる。

長場雄《Everyday Life》のAR画面

 広場を後にし、お台場の中心部を東西に貫くシンボルプロムナード公園を青海方面に歩いていくと、テレビ朝日施設の建設予定地がある。ここの仮囲いと付近のトイレ壁面に新作を展開しているのがアルバムジャケットやキャラクターデザインを手がけるがーこだ。

展示風景より、がーこ《Tokyo Bay Palette》

 がーこはキャラクターたちの個性を際立たせた横長の絵画を制作。また、近くの公衆トイレ前の壁画は、キャラクターたちが文様のようになった作品が出現。キャラクターの個性が既視感等の文脈と同居していることが表現されている。

展示風景より、がーこ《Tokyo Bay Palette》

 青海側に渡る「夢の大橋」からは、テレビ朝日とSTYLYで開発したAR作品《CIRCULATION BALL -まちもひともせかいもめぐる-》を見ることができる。スマートフォンをかざせば、臨海副都心の風景を大きな赤いボールが動き回り、タッチをすることで動きに変化が生まれる。本作はここ以外にも「花の広場」「石と光の広場」「夢の広場」とシンボルプロムナード公園の各所で展開されており、会場をめぐるガイドラインとしての役割も果たす。

《CIRCULATION BALL -まちもひともせかいもめぐる-》のAR画面

 また、「夢の大橋」を渡った先にある「夢の広場」では、テレビ番組の美術セットの廃材を活用した参加型の作品《COLORFUL THEATER》を設置。ほかにも、15日、16日、23日には東京ビッグサイトにプロジェクションマッピングを展開する「東京国際プロジェクションマッピング アワード -ART FESTIVAL 特別上映」が、23日19時からは上西隆史による鉄棒を使ったエアダンスが「石と光の広場」で披露される。

展示風景より、《COLORFUL THEATER》

 作品を通じて、お台場という埋立地に生まれた都市を体感できる芸術祭。いつもとは違う街を発見し、その構造について思いを馳せることができるものとなっている。

編集部

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