螺鈿で表現する近未来的な世界。池田晃将が公立美術館で初個展

金沢21世紀美術館のデザインギャラリーで工藝美術家・池田晃将による公立美術館では初となる個展が開幕した。学生時代の作品から代表作「電光」シリーズまでが展覧されている。会期は9月18日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、池田晃将《Error-Debris-》(2020)

 見れば見るほど目を奪われる螺鈿だ。近未来的な世界観を伝統的な螺鈿技法に新技術を取り入れ体現する池田晃将(いけだ・てるまさ)。その公立美術館では初となる個展「虚影蜃光」が金沢21世紀美術館で始まった。会期は9月18日まで。

 池田は1987年千葉県生まれ、石川県金沢市在住。2016年に金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科修士課程工芸専攻を修了し、19年には金沢卯辰山工芸工房漆芸工房を修了している。近年、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」(国立工芸館、2023年)、「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」(岐阜県現代陶芸美術館、2023年)、「ジャンルレス工芸展」(国立工芸館、2022年)、「《十二の鷹》と明治の工芸―万博出品時代から今日まで 変わりゆく姿」(国立工芸館、2021年)、「和巧絶佳展-令和時代の超工芸-」(パナソニック汐留美術館、2020年)など、数々の展覧会で引っ張りだこの作家だ。

展示風景より

 池田の作品の大きな特徴は、伝統工芸である螺鈿技法と、ICチップ生産に用いられるパルスレーザーや超音波振動機といった現代の技術を組み合わせることにある。『攻殻機動隊』や『マトリックス』を思わせる雨のように降り落ちる数字や、角度によって異なる煌めきを見せる電子回路のような模様、そして玉虫色の貝の光。切削機やパルスレーザーなどの機械と新技術を導入することで生み出された、厚さ0.9mmの素地と幅0.2mmの螺鈿チップは、現代社会において欠かすことができない電流やデータを表している。

展示風景より、《Error-Brick-》(2020)

 会場では、池田が制作活動を始めてから約10年のあいだに生み出された作品が前後期に分けて全14点が紹介される。箱や中次(薄茶器の一種)などの器物だけでなく、木曽檜を素材とした用途を持たないオブジェも含まれる。

展示風景より、《高輝度隕石飾箱》(2022)
展示風景より、《夜光紫電砲中次》(2021)

 また、池田が金沢美術工芸大学在学中に発表した、自然界に存在する生物をベースに空想上の造形を生み出した「Neoplasia」シリーズのほか、鉱物標本、玩具や書籍など、本人の所蔵品も併せて展示。池田の創造の源泉をたどることができるのもこの展示の大きな特徴と言える。

展示風景より、《Neoplasia02》(2014)

 加えて、企業とのコラボレーションにも注目したい。2021年から株式会社川島織物セルコンと螺鈿帯のコラボレーションシリーズを発表している池田。会場にある百千夜光螺鈿帯「八重霞」は螺鈿を施した箔を糸状に細く裁断し、緯糸として絹の経糸に織り込む手法で製作された品であり、互いに高い技術力を持つもの同士でなければ実現しえないものだ。

展示風景より、百千夜光螺鈿帯「八重霞」(2022)

 伝統工芸の技と自らの表現を巧みにマッチさせ独自の世界を切り拓いてきた池田はまだまだ進化し続けていく──そう思わせる展示をお見逃しなく。

編集部

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