近代の画家たちは自然をどうとらえたのか? 国立西洋美術館の「自然と人のダイアローグ」展でたどる芸術的展開
自然と人の対話から生まれた近代の芸術の展開をたどる展覧会「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」が、6月4日に国立西洋美術館で開幕した。ドイツ・ロマン主義から20世紀絵画までの100点を超える作品が集まった本展の見どころをレポートする。
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1年半の休館を経て今年4月に再開館した国立西洋美術館。そのリニューアルオープンを記念し、自然と人の対話から生まれた近代の芸術の展開をたどる展覧会「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」が開幕した。
本展は、ドイツ・エッセンのフォルクヴァング美術館との協働によるもの。フォルクヴァング美術館と国立西洋美術館は、それぞれ同時代を生きたカール・エルンスト・オストハウス(1874〜1921)と松方幸次郎(1866〜1950)の個人コレクションをもとに設立された。両館のコレクションから、印象派とポスト印象派を軸にドイツ・ロマン主義から20世紀絵画までの100点を超える絵画や素描、版画、写真が一堂に会する。
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展覧会のオープニングに際して本展の担当研究員・陳岡めぐみ(国立西洋美術館 主任研究員)は、本展は時代順ではなく、「『自然』というテーマを繰り返してバリエーションを加えていくようなかたち」で構成されたと話す。
第1章「空を流れる時間」では、絶えず変化し続ける自然の諸相をテーマに、「雲」「風」「雨」「雪」「霧」などの気象を表現した作品が集まる。「空の王者」と称されたウジェーヌ・ブーダンがノルマンディーの海辺のリゾート地を描いた《トルーヴィルの浜》(1867)《引き潮のドーヴィルの浜》(1893)からはじまり、「嵐の海」というテーマを抑えた色調で表現したエドゥアール・マネ《嵐の海》(1873)や、朝霧がかかり、画面全体が青く描かれたクロード・モネ《ルーアン大聖堂のファサード(朝霧)》(1894)へと展開していく。
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この章で注目したいのは、同章の中央に並べて展示されたモネの《舟遊び》(1887)とゲルハルト・リヒターの《雲》(1970)だ。前者は、川の水面を横切る夏服の娘たちを乗せた一艘の小舟が描かれたもので、画面中央に配された彼女たちの姿とその水面の反映像が実像と虚像のコントラストを強調している。いっぽうリヒターは写真をもとに雲を描いており、ソフトフォーカスの写真のようにも見えるこの作品は、到達できないユートピアとしての青空への憧憬を喚起する。
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第2章「〈彼方〉への旅」では、実際に見える世界とは異なり、アーティストの心象や観念に結びついたもうひとつの自然を表現した作品を展観する。
ドイツ・ロマン主義を代表するひとりであるカスパー・ダーヴィト・フリードリヒが、遠い地平線の向こうに沈みゆく夕日を前に立つひとりの女性を描いた《夕日の前に立つ女性》(1818)をはじめ、「窓」を媒体に画家の内面性を象徴したヨハン・クリスティアン・クラウゼン・ダール《ピルニッツ城の眺め》(1823)、「海」の崇高美を表したギュスターヴ・クールベの《波》(1870)、五感を開いて神秘的な表現を生み出したギュスターヴ・モローやオディロン・ルドンらの作品群など、人間の精神の真相に迫るような表現に注目してほしい。
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第3章「光の建築」では、秩序や法則など自然における永続的な要素を抽出し、新たな造形表現を探求する作品が並ぶ。
例えば、近年、国際的な評価の高まりを見せるフィンランドの画家アクセリ・ガッレン=カッレラの《ケイテレ湖》(1906)では、画面の多くが鏡のような湖面で占められ、さざ波を表すジグザグのパターンを配することで大胆な装飾的効果が生み出されている。
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また、ピート・モンドリアンの《コンポジションX》(1912-13)もその好例のひとつだ。樹木をモチーフにしたこの作品では、果樹が画面に秩序とリズムを与え、モンドリアンが追い求めていた宇宙の秩序の寓意としての絵画空間となっている。
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最終章「天と地のあいだ、循環する時間」では、季節の巡りや生命の誕生と消滅の繰り返しなど、自然における循環的な時間と人の生を重ね合わせたような作品を見ることができる。
ドイツより初来日した本展の目玉作品のひとつ、フィンセント・ファン・ゴッホが晩年に取り組んだ風景画《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》(1889)では、金色に輝く麦畑でひとりの農夫が黙々と麦を刈る場面が描かれている。「人間は刈り取られる麦のようだ」と死そのものをイメージしたという作品だ。
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失楽園をテーマにしたエドヴァルド・ムンクのリトグラフの連作を経て、最後の展示室では人の慰めを象徴した「庭」の花を表現した作品が並んでいる。
モネが築いたジヴェルニーの庭の池に宿っていた睡蓮の花を描いた《睡蓮》(1916)の反対側に、ドイツの女性写真家エンネ・ビアマンが一輪の睡蓮を撮影した写真が展示されており、神秘的な生命力を示したふたつの「睡蓮」が響き合う。また、近年フランスで発見され、修復作業を経て2019年に初公開されたモネの《睡蓮、柳の反映》(1916)や、ゴッホの《ばら》(1889)、エミール・ノルデの《百日草》(1928)など、ミクロの視点で自然をとらえた作品を展示するこの展示室は、「空」「雲」などマクロの表現が集まった展覧会の冒頭部とも呼応している。
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気候変動や地球温暖化などの環境問題に対する注目が高まるなか、自然と人の会話をテーマにした本展を開催する意義について、陳岡は「美術手帖」に対して次のように語っている。
「『自然』というテーマが先にあったわけではなく、両館のコレクションを紹介するなかでこのテーマが出てきたが、この展覧会を通じて自分の感性や美的な感動などの見方をより良くするものにつながり、自然に関心を持つきっかけとなれば嬉しく思う」。
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