スペインを代表するアーティスト、ミケル・バルセロ。その全貌を初めて紹介する回顧展が、最終会場である東京オペラシティ アートギャラリーで開幕した。本展は、国立国際美術館、長崎県美術館、三重県立美術館で開催されたもの。会期は3月25日まで。
ミケル・バルセロは1957年、13世紀からスペイン・マジョルカ島で続く名家に生まれた。76年に前衛芸術家のグループに参加し、82年の「ドクメンタ7」で初めて国際舞台に登場。このデビュー以降、スペインをはじめ、パリやアフリカなど世界各地にアトリエを構え、各地の風土や文化、歴史と対峙するなかで制作を続けている。
絵画を中心に、彫刻、陶芸、パフォーマンスなど領域を越えて活動しており、近年ではマジョルカ島のパルマ大聖堂の内部装飾や、スイス・ジュネーブの国連欧州本部人権理事会の大会議場天井画など、壮大な建築的プロジェクトなども手がけている。
本展は、その活動の全貌を日本国内で初めて紹介する回顧展。キュレーションを担当した東京オペラシティ アートギャラリーの福士理はバルセロについて「日本のオーディエンスには見る機会が少ない作家で、コレクターにとっても縁遠い存在だった」としつつ、「新表現主義の作家として国際的に知られており、直情的な絵画。多様な作家ではあるが、海と大地、動植物、歴史、宗教、闘牛、肖像といったテーマが大きな位置を占めている」と評する。
展示は、近作から過去作へと時代を遡るかたちで構成。ただし展示冒頭にはシンボリックな作品として、ドクメンタ7に選出された喜びを描いた《良き知らせ》(1982)と、バルセロが美術に進むきっかけとなった母親の肖像画《母》(2011)が並ぶ。
圧巻は30点を超える絵画作品群だ。縦横が2〜3メートルを超える巨大な画面が並び、見るものを圧倒する。海を漂う難民を想起させる《不確かな旅》(2019)や《たくさんの蛸》(2020)、立体的なディテールが施された《漂流物》(2020)や《下は熱い》(2019)など、自然と人間の営みに対する鋭い眼差しがそこにはある。
また、バルセロが絵画の延長としてとらえる陶の作品にも注目したい。強い力を加えてから窯で焼かれた陶器の数々。バルセロはその痕跡を動物、人体、植物などのイメージへと変容させている。
本展では、こうした作品に加え、暗色のキャンバスに漂白剤で描く「ブリーチ・ペインティング」や、ドローイングの数々、あるいは新型コロナウイルスを描いたスケッチブックなど、多様な領域におよぶ活動を展覧。原初的なイメージを表現し、人間の生の営み、その根源への問いを投げかけるバルセロの画業に触れてほしい。