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過去との対話から時を超える「絵画」を生み出す。ミヒャエル・ボレマンス インタビュー

美術史上に名を残す多くの作家を輩出してきたベルギーを拠点とし、独特の想像力を携えた絵画作品で知られるミヒャエル・ボレマンス。金沢21世紀美術館でのマーク・マンダースとの二人展に際して、企画を担当したキュレーターが話を聞いた。

文=黒澤浩美(金沢21世紀美術館チーフ・キュレーター)

ミヒャエル・ボレマンス Photo by Alex Salinas 写真提供=金沢21世紀美術館

絵画という過去との対話

 ミヒャエル・ボレマンスは1963年、ベルギーのゲラールスベルゲンに生まれた。ベルギーとフランス北部を含むフランドル地方は15〜16世紀の北方ルネサンス発祥の地でもあり、デューイ、ブリューゲル、ファン・エイクといった多くの芸術家が生まれている。とくに絵画においては、非現実的な設定や奇想のイメージが見る者に不穏で落ち着かない感覚を抱かせる、特徴的な作風がある。ボレマンスもまた、そうした伝統を引き継ぐ現代美術作家のひとりだ。

 ボレマンスは幼少の頃から絵を描くことが好きで、6歳の頃には、描くことは自分のものだと悟ったという。複製画を画集で眺めることも好きだった。敬虔なカトリック教徒の両親のもと、毎週欠かさずミサに通った教会にも、宗教画や使徒が描かれたステンドグラスがあったが、どのイメージも子供心に怖かったと回想する。「当時、教会は自分の世界の一部だった。そこは宗教画、とくにフランドルの中世の絵画の伝統であるゴシックの美学にあふれ、しばしば待ち伏せられているかのように残酷な場面に出会う。その圧倒的なイメージの数々は、確かに私の潜在意識に影響を与えたと思う。10歳頃になると、いよいよここ(教会)から逃げなくちゃと、本気で思うようになった」と苦笑する。そのいっぽうで、宗教画や聖人像における視覚言語は魅惑的で、強く惹かれたと言う。いまでも祭服のようなローブをまとった人物像を描き、「天使」「クロス」といった作品タイトル、うつむいた少女が口に運ぶ「パン」など、作品の多くには宗教的なキーワードが散りばめられている。

 青年期には美術学校に入学して絵を学ぼうとしたが、絵具を使うのは複雑すぎると思い、製図とエッチングを選んだ。フラゴナールの画集で素描を学び、その後、ディエゴ・ベラスケスのほうが自分の表現に合っていると発見した。本格的に絵画制作に移行したのは30代に入ってからだ。

 学生時代に学んだ美術史で、それまで慣れ親しんでいた中世の作品とは違う、革命的とも言えるマルセル・デュシャン以後の価値の転換を知った。19〜20世紀の美術が、ある意味で教会美術や伝統からボレマンスを自由にしたのだ。しかし、前衛的と言われたデュシャンが絵画を手放したいっぽう、ボレマンスはなぜ絵画というメディアを選んだのだろうか。写真や映画など、様々な可能性が広がった時代に学び、いまでも絵画以外に素描、映像、彫刻などの作品も発表しているため、メディアの選択と意味付けについてよく質問を受けると言う。しかし、「メディアについての議論は相変わらずあるけれど、私の意見では、メディアはたんなるメディアでしかない。すべてのものがデジタル化していく現代にあって、メディアとしてのデジタルに意味を見出すなど、少しばかげている。自分が表現したいものに合ったメディアを使用するだけ。それはとてもシンプルな話でしょう?」と答える。

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