芸人、俳優として活躍する片桐仁。天然パーマにメガネがトレードマーク、業界でもファンを多く持つ「ラーメンズ」としてコントの世界で名を知られ、近年ではテレビ・CM、映画、舞台で、個性派俳優として人気を博している。多摩美術大学出身の彼は、俳優業のかたわら、1999年から彫刻家としての活動も開始、粘土を素材に、独創的な造形を繰り出してきた作家でもある。
2001年に個展 「俺の粘土道展」を開催、2015年にイオンモール幕張新都心での作品展示を皮切りに、2016年から全国を巡回した 「片桐仁 不条理アート粘土作品展 『ギリ展』」は、4年間で18都市を巡り、7万8000人を動員したという。
その「粘土道」(ねんどみち)も20年を経て、それまでの創作の集大成となる過去最大規模の個展が、東京ドームシティ Gallery AaMoで始まった。コロナ禍のため2020年に中止になった展覧会が新たな会期での公開となった。
これまでの粘土道として発表された粘土作品が一堂に会するのみならず、雑誌『テレビブロス』の連載で描いてきたイラストや取材先で制作した作品、企業とのコラボレーションで生まれたものなど、彼の創作の展開を追える内容になっている。
学生時代に描いた絵画作品も初公開、クラウドファンディングによって実現した巨大作品《公園魔》(2021)が会場のランドマークとなり、“アーティスト・片桐仁”を堪能できるだろう。
彼の粘土作品は、「何かに粘土を盛る」というアイデアから生まれている。それは、セロハンテープ台であったり、スマートフォンであったり、日々、わたしたちが何げなく使っているモノが、楽しくもグロテスクな装飾をまとって日常を変貌させる。
そのメタモルフォーゼは、ダジャレであったり、彼の好きなものとの融合であったり、時事ネタだったり。造形のインパクトともにタイトルも楽しみたい。
作風で影響を受けたのは、フィギュア造形作家・竹谷隆之。「ガンダム」を筆頭に、アニメやゲーム好きでも知られる彼らしい。
自画像の延長としてはじまった「粘土道」は、そのモチーフで「俺期」「動物期」「古代文明期」などに大きく分けられるようだ。青森県とのコラボレーションでは、特徴的な「遮光器土偶」に魅せられて、ペットボトルホルダー「ペットボ土偶」が生まれた。「縄文期」も大きなモチーフのひとつとなる。
これらの作品は、「不条理アート」と名づけられているように、「そんなものいらない」「なんの役に立つんだ?」と思われるようなムダなものがコンセプトとなっている。そこには、「便利=最高」という世の中への片桐の違和感が込められる。
学生時代、絵画科を目指すも叶わず、版画科で小林賢太郎と出会い、「ラーメンズ」を結成。芸人として活動しながらも創作への意志は持ち続けていたようだ。
子供の頃の絵から、学生時代の自画像には、片桐のまじめな一面が感じられる。17年間続く『テレビブロス』の取材連載「おしり(おしえて何故ならしりたがりだから)」を引き受けたきっかけも、人見知りのコンプレックスを解消したいという動機があったという。
そこでは見た目の印象と異なる人びとの姿や、職人の超絶技巧に出会い、カメラの前で恥ずかしくでできなかったポーズも取れるようになった。会場ではそうした「俺」の楽しい写真もパネルで楽しめる。
そして本展に合わせたクラウドファンディングにより実現した《公園魔》は、彼が子供の頃からずっと創りたいと思っていた巨大なタコの遊具をイメージをしたもの。
地獄の鬼の口がすべり台になっている本作。残念ながら実際に滑ることはできないが、舌には座ることができ、裏に回ると、登って口から顔を出せる階段がついて、絶好のフォトスポットになっている。
来館者に嬉しいもうひとつの撮影コーナーには、家族とともに出演することで人気のYouTube 「ギリちゃんねる」に登場する「片桐家のリビング」の再現が用意されている。家族の作品や彼らのアイデアから生まれた作品が集合した空間には、20年以上の創作活動を支えてくれた家族への感謝も込められている。
また、ペーパークラフトでつくる「ペットボ土偶」のサンバイザーや粘土クラフトでオリジナルふうりんをつくるワークショップなども会場内で体験できる。出口付近には、竹谷隆之をはじめ、トータス松本、大宮エリー、野生爆弾くっきー!ら、7名のアーティストとのコラボレーション作品も展示されており、一部作品ではチャリティオークションも開催予定だ。
生活に根ざしたものをモチーフにしながら実用性を無化し、自身を主張しつつもさまざまな協働で「オリジナリティ」を超えて、楽しむことを提示する片桐の創作は、アートに社会的意義を求める傾向の強い風潮へのひとつのアンチテーゼになるのかもしれない。
「美術ってハードルが高いと思っている人たちにも楽しんでもらえると思う」という片桐仁。自由で創造性あふれた空間、家族で体験してみてはいかがだろうか。