東京都美術館「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」が開幕。丸木スマら6作家を通して考える「日々生きること」

東京都美術館の展覧会シリーズ「上野アーティストプロジェクト」の第5弾として、「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」が始まった。本展では、戦前から現代まで世代の異なる6名の女性作家を紹介することで、表現と日々生きることの関係を問う。会期は11月17日~2022年1月6日。

展示風景より、丸木スマ《鳥の林》(1952)、《簪》(1955)

 数多くの公募展が開催される上野の東京都美術館では、展覧会シリーズ「上野アーティストプロジェクト」によって公募展を舞台に活躍する作家たちを毎年異なるテーマで紹介してきた。その第5弾となる「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」が、11月17日に始まった。会期は2022年1月6日まで。

 本展では「Everyday Life」をテーマに、戦前・戦後の美術団体で活躍した物故作家3名と、現役作家3名を3章構成で紹介。それぞれの作品から「日々生きること」を問い直すというものだ。

 第1章「皮膚にふれる」では、貴田洋子(1949年生まれ)と桂ゆき(1913〜1991)の2作家が紹介される。

 日展や現代工芸展で活躍する貴田は、江戸時代に生まれた「津軽こぎん刺し」を独学で身につけ、その伝統模様や運針規則を厳格に守りながら表現の新たな可能性を追い求めている作家。従来は幾何学的模様のみで構成されるこぎん刺しだが、貴田は様々な独自の技法で曲線を生み出すことに成功。高い評価を得ている技術に見入ってほしい。

展示風景より、貴田洋子の作品群
展示風景より、貴田洋子《万葉・衣音の秋》(2005)

 いっぽう、二科会を中心に活躍し、女流画家協会の設立にも携わった桂ゆきは、活動初期において草花や木の根など身近にあるオブジェを拾い上げ、作品を描いてきた。しかしながら戦後は、自分自身と向き合うなかで社会的なテーマを取り上げるようになり、公募展とも距離を置くようになる。本展では、その両時期の作品から、作品の変遷を見ることができる。

展示風景より、桂ゆき《レースと紙のコラージュ》(1930)
展示風景より、手前は桂ゆき《ひまわりの咲く午後》(1948)
展示風景より、桂ゆき《マスク》(1970頃)

 続く第2章「土地によりそう」では、常盤とよ子(1928〜2019)と小曽川瑠那(1978年生まれ)が共演する。

 戦後の女性写真家の草分けとして活躍した常盤は、生涯を横浜で暮らしながら、赤線の女性たちの日常をとらえ続けた。赤線の女性たちを追いかけるうちに心を通わせた常磐。見過ごされてしまいそうな日々を写真として記憶したその目線をたどりたい。

展示風景より、手前は常盤とよ子《別れのキッス》(1954)

 ガラスの公募展や国際コンクールで評価を確立した小曽川は、拠点とする飛騨高山の風景や、戦争や災害などの記憶をガラスにとどめるアーティスト。日々の息を吹き込んだ新作のインスタレーション《息を織る 2021》など、繊細な表現の数々をじっくりと鑑賞したい。

展示風景より、小曽川瑠那《息を織る 2021》(2021)

 終章となる第3章「記憶にのこす」を構成するのは、丸木スマ(1875〜1956)と川村紗耶佳(1989年生まれ)のふたりだ。

 太平洋戦争を経験し、戦後、70歳を過ぎた頃に絵筆をとった丸木スマは美術教育を受けず、自分自身で表現を開拓していった画家。夫・金助を亡くした原爆の記憶だけでなく、自身が暮らした山村の風景や、身近にいた動植物を鮮やかに描き残した。本展では、女流画家協会や再興院展の出品作品を中心とする11点が並ぶ。

展示風景より、手前は丸木スマ《柿もぎ》(1949)
展示風景より、丸木スマ《簪》(1955)

 いっぽうの川村は、一貫して「記憶」をテーマに版画の制作を続けているアーティスト。故郷・北海道で家族と過ごした記憶が、「どこにでもいる誰か」の一コマとして木版画で表現されている。

展示風景より、川村紗耶佳《I dreamt of floating》(2020)

 展示を担当した東京都美術館学芸員・大内曜は、「日々の身近な風景、見過ごしてしまいがちなものに目を向け、そこから社会につながる視点を持って制作している作家を取り上げた」と本展を振り返る。

 なお、同館ではギャラリーBにおいて「東京都コレクションでたどる〈上野〉の記憶と記憶」も同時開催(〜1月6日)。公募団体が開催されてきた上野の風景が、約60点の作品・資料を通じて紹介されている。

「東京都コレクションでたどる〈上野〉の記憶と記憶」より
「東京都コレクションでたどる〈上野〉の記憶と記憶」より

編集部

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