草間彌生の新作・近作を紹介する展覧会「私のかいたことばに あなたのナミダをながしてほしい」が、6月22日より東京・六本木のオオタファインアーツで開催される。
本展は、同ギャラリーの東京スペースでは5年ぶりとなる草間の個展。草間が2009年から制作を続けてきた「わが永遠の魂」シリーズより絵画33点と、インスタレーション作品《雲》(2019)を展示する。
194×194cmの大判キャンバスに代表される「わが永遠の魂」シリーズだが、18年頃から草間は100×100cmのサイズを集中して描くようになり、モノクロームの作品にも精力的に取り組んできた。しかし、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るうなか、草間はふたたび色彩の世界に戻り、130×130cmサイズのキャンバスも加えて制作を続けている。
制作開始から12 年を経てすでに800点以上が制作されている同シリーズ。本展では、今年の最新作を含めて直近の3年に制作された33点が並ぶ。本展のタイトルについて、ギャラリーオーナーの大田秀則はこう話す。「『私のかいたことば』は、作品そのものを指す。作品を通して自分の思いが、涙が出るくらい相手に届いてほしいと。その相手とはとくに誰かのことを指しているわけではなく、深く届くことが作品の役割であることを作家は知っている」。
これらの作品の制作にあたって草間は事前に構図を考えず、すべて即興的に描いたという。代表的なモチーフである「水玉」や「網」などが繰り返し用いられているいっぽうで、女性の横顔や目、雲などのモチーフも多く描かれている。また、床に置かれた《雲》は、「わが永遠の魂」シリーズの作品を反射することで、様々な色が増殖して振動感のある空間を生みだしている。
大田によると、今回の作品の多くは、草間が「死」を考えながらつくったものだという。「死ぬことと制作することは本人のなかで違うのか、一緒なのか誰にもわからないが、自分の死や一生を振り返るような言葉が書かれてあり、そういう気持ちで作品を描いたのだろうと思う」。
その言葉とは、次のようなものだ。
私の死んだときに
生前美しくつくり上げてきた
わが墳墓をみてください
生涯の終わりとして
悲しみのどん底でも
空の太陽は輝いていたね
心いっぱいの努力を終えた
私の芸術よ
なお、本展と同時期にヴィクトリア・ミロ(ロンドン)とデビッド・ツヴィルナー(ニューヨーク)でも草間の同名の個展が開催。東京での展示を含め、「わが永遠の魂」シリーズを中心に直近の作品合計101点が全世界に紹介される。
これらの展覧会について、大田はこう語っている。「(草間の)かぼちゃやネット、ドットなどの作品が有名ですが、決まったイメージがある。しかし本人はもっと激烈な領域を目指したいし、色々現実に違う爪痕を残したいという気持ちがあるので、これだけのバラエティーの作品をもっとたくさんの人々に認知してもらえたら」。
なお物理的な展示とあわせて、オオタファインアーツは今回の出品作を紹介するオンライン・ビューイング・ルームも開設し、筧菜奈子の書下ろしテキストとともに展覧会を紹介する。コロナ禍にもかかわらず作品制作を精力的に続けている草間の新たな取り組みを、ぜひ体感してほしい。