生涯にわたり自然界に魅了されてきたという草間。「KUSAMA: Cosmic Nature」展は草間と自然との関わりを探求するもので、この切り口から包括的に草間作品を振り返るのは初めての試みだという。
会場のニューヨーク植物園は、250エーカー(1平方キロメートル)を擁する全米最大の植物園で、通常は年間100万人の来場者を迎える人気施設。世界の植物保護のための研究施設として1891年に設立。現在は100万に及ぶ植物から構成され、およそ100名の研究者たちが国際的な数多くの調査プロジェクトに従事している。また同園が有する780万の植物標本や、10世紀分にもわたる植物の関連資料は、世界でも屈指のレベルを誇る。
同園は美術展の会場としてはユニークだが、自然をテーマにした展示にはうってつけの場所だといえよう。「KUSAMA: Cosmic Nature」では、本展のために制作された4点を含む約50作品が、広大な敷地の屋内外に展示されている。
屋外には、太陽をモチーフにした立体《I Want to Fly to the Universe》(2020)、水玉模様の布地で木を包んだ《Ascension of Polka Dots on the Trees》(2002 / 2021)、かぼちゃの立体《Dancing Pumpkin》(2020)らが展示されている。鮮やかな園内の緑と見事に融合しているこれらの作品の前では、写真撮影する人が絶えない。
「ネイティブ・プラント・ガーデン」の池では、1400のステンレスボールが浮かべられたインスタレーション作品《ナルシスの庭》(1966/2021)が展示されている。水や風によりボールが動き、ボール同士がぶつかると心地良い金属音が響く。つねに変化するこの作品には、じっくり見入る人が多い。
種苗業を営む旧家に生まれた草間にとって、自然や植物は親しみ深いもので、多くの作品のモチーフとなってきた。「マーツ・ライブラリ」のギャラリーには、1945年に描かれた花のスケッチなどから近年の大型絵画までが並ぶ。初期作品には、アメリカ及び一般初公開となるものも含まれている。本展のテーマである「長年にわたる草間の自然への関心」を作風の変遷とともに追う内容で、コンパクトな展示ながらも本展の核となっている。
「ハウプト温室」では、草間の「バイオフィリア(生物や自然への愛情)」を表現した作品が展示されている。なかでも《My Soul Blooms Forever》(2019)は、本展のハイライト的作品。温室のドームの真下にある人工池に、極彩色の巨大な花が5本浮かぶ。周囲を緑に囲まれ、作品はギャラリーで展示される際とは全く違う気迫を漂わせ、近寄り難さを感じさせる。そして、普段この池には何があるのかと思うほど空間に調和している。
温室内のもうひとつの立体作品《Starry Pumpkin》(2015)は、草間の代表作であるカボチャが金色とピンクのタイルで彩られているもの。緑で覆われる温室内を歩くうちに次第に視界に入ってきて、植物を掻い潜って接近したのち、ようやく全体像が見えるアプローチになっており、広大なエリアを使用した本展の終着点としてふさわしい作品のように感じられた。
会場では、草間へのオマージュとして、水玉柄のドレス姿の来場者も見られて、草間の人気を伺わせていた。アメリカにおいては、改めて紹介が必要ないように見える草間作品だが、新しい切り口から作品の変遷を振り返ることで、草間の魅力を再認識する展示内容になっていたように思う。