これまでに多くのアーティストが作品を展示してきたGINZA SIXの吹き抜け空間。この場所で4月12日より、彫刻家・名和晃平によるインスタレーションの展示が始まった。
今春、開業4周年を迎えるGINZA SIXの中央にある吹き抜けの空間では、これまでに草間彌生やダニエル・ビュレン、ニコラ・ビュフ、塩田千春、クラウス・ハーパニエミ、吉岡徳仁といったアーティストやデザイナーが作品を展示してきた。
今回この場所で名和が制作したのは、《Metamorphosis Garden(変容の庭)》と題されたインスタレーションだ。吹き抜けの中空には、4階部分の高さに合わせて不定形の島々や、「エーテル」と呼ばれる噴き上がる雫が浮かぶ。その中央には名和が過去に「Reborn-Art Festival 2017」や、明治神宮の「神宮の杜芸術祝祭」(2020)でもモチーフとした作品を制作した「神鹿」の彫刻が佇む。
名和は本作のコンセプトに至るまでの過程について次のように語った。「昨年の春より作品のコンセプトを考えており、当初はオリンピックの後ということもあり祝祭的なイメージを考えていたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、何をつくるべきかを改めて考えた。そのうえで、どんな状況であっても、自分が表現できるものとして制作した」。
本作の土台とされたのが、名和が2013年に瀬戸内海にある犬島の「F邸」で制作したインスタレーション《Biota (Fauna/Flora)》だ。動物や植物を想起させる様々な形状のオブジェからなる同作の「混沌とした宇宙から新たな生命が生まれる」というテーマを発展させ、コロナ禍においてより一層意識される、人間中心ではない生命同士の関係性や全体性を表現した。
浮遊する島々はセラミックの一種であるアルミナ、上昇する水滴状の「エーテル」はマイクロビーズとそれぞれ異なる素材で制作され、お互い補完しながら成立する生態系の性質を素材にも反映。中央には神の使いに見立てた神鹿が、生命を見守る象徴として佇む構造となる。
本作における島々は日本神話における「国生み神話」などの意味も含む。さらに、今回の作品の底面は平らに処理されており、低層階から見上げると、海中から島々を見上げているような印象を受ける。これは、水面をイメージさせる意図があり、名和によれば地球温暖化における海面上昇の問題なども問いかけているという。
なお、このインスタレーション作品に関連し、フランスの振付家、ダミアン・ジャレと共作されたARコンテンツ「Metamorphosis Garden_AR」も5月上旬に公開予定。5Gの通信技術を利用し、彫刻にスマートフォンのアプリケーションをかざすことで、名和の彫刻とARイメージが調和しながら変容。ダンサーのパフォーマンスによって、渦のイメージを多用しながら、日本神話をテーマとした世界が描かれる。VR技術と彫刻が融合したこちらも、期待が高まる。