2021.1.16

梅津庸一監修の「絵画の見かた reprise」が√K Contemporaryで開幕。100点を超える絵画で問う「自分にとって良い絵とは何か?」

東京・神楽坂の√K Contemporaryで、美術家・梅津庸一が監修を務めた『美術手帖』2020年12月号「絵画の見かた」特集を副読本とした展覧会、「絵画の見かた reprise」が開幕した。会期は1月16日〜31日。

「絵画の見かた reprise」展示風景
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 東京・神楽坂の√K Contemporaryで「絵画の見かた reprise」が開幕した。会期は1月16日〜31日。

 本展は、美術家・梅津庸一が監修を務めた『美術手帖』2020年12月号「絵画の見かた」特集を副読本とした展覧会だ。特集内で取り扱われた作品のみならず、特集から漏れてしまった作品や、同展のために新たに制作された作品までを展示。地下1階、1階、2階の3フロアを全面的に使用し、30名を越える作家の作品100点以上によって、絵画における様々な形態や形式を提示する。

「絵画の見かた reprise」展示風景より

 「絵画の見かた」特集に掲載された、梅津庸一が司会を務め、青木陵子、大山エンリコイサム、梅沢和木、KOURYOUが参加した座談会企画「いかにして絵画は生まれるのか」。会場では、この座談会に参加した青木、梅沢、KOURYOUの実作品を展示。各アーティストが自身の作品とどのように向かい合ったのかを、それぞれの作品からうかがうことができる。

展示風景より、左が青木陵子《ダーティーワーク・消えたもの》(2020)

 様々なドローイングやオブジェクトをフレーム内に構築する青木陵子《ダーティーワーク・消えたもの》(2020)や、パネルに出力された画像と手描きの筆致の関係性が浮かび上がる梅沢和木の《Eternatus Core》(2019-20)、ウェブサイトの設計図を絵画化したKOURYOUの《諸芸術のタテモノたちが佇む聖なる廃墟 2》(2017)などを展示する。

展示風景より、梅沢和木《Eternatus Core》(2019-20)
展示風景より、KOURYOU《諸芸術のタテモノたちが佇む聖なる廃墟 2》(2017)

 会田誠、海老澤功、西村有未が参加した鼎談「絵画をどう判断するか」に関連した作品として、海老澤と西村の絵画も展示。美術予備校である新宿美術学院で長年油絵の講師として「絵画の価値」と向き合ってきた海老澤の《1004》(1975)や、鼎談で西村が完成途中のものを持参した《焚火を超えて溶解する、雪娘。》(2020)の完成作品を見ることができる。

展示風景より、海老澤功《1004》(1975)
展示風景より、手前が西村有未《焚火を超えて溶解する、雪娘。》(2020)

 木下晋と弓指寛治による対談「なぜ絵画を描くのか」に関連した作品としては、闘病中の妻を描いた木下の《願い》や《生命の営み》(ともに2019)と、自殺した母の思い出と向き合いながらつくりあげた弓指の《挽歌》(2016)が展示されている。身近な存在と対峙することで描きあげられた絵画の迫力に触れてほしい。

展示風景より、左から木下晋《生命の営み》、《願い》(ともに2019)
展示風景より、弓指寛治《挽歌》(2016)

 梅津が主宰する私塾「パープルーム予備校」 で日々行われている絵画講座を、そのプロセスを追いながら誌上で紹介した「パープルームの絵画講座」。この企画で制作過程が紹介された安藤裕美《深夜に読書する梅津さん》(2020)の実作品からは、いかなる順序で絵具が積層していったのかを観察することができるだろう。

展示風景より、安藤裕美《深夜に読書する梅津さん》(2020)

 ほかにも、梅津が運営するパープルームギャラリーでこれまで紹介されてきた、星川あさこやしー没といった作家の作品も見ることができる。自身が創作するのみならず、自らがキュレーションをして作家を紹介するという行為を通じて、梅津が絵画に向き合ってきた道程も知ることが可能だ。

展示風景より、しー没「√没」シリーズ(2020〜2021)

 また、京都絵画シーンの服部しほり、田中秀介、池田剛介の作品も展示。さらに、公募団体展に作品を発表し続けた續橋仁子、またコレクターたちが蒐集をしてきた絵画としてリチャード・オードリッチ、中園孔二らの作品も紹介されている。

展示風景より、左から服部しほり《人魚図》、池田剛介《抽象表現マンガ─原画(stroke #29)》、《抽象表現マンガ─原画(stroke #17)》(いずれも2020)
展示風景より、右が續橋仁子《トルコの旅から No.2》(2011)
展示風景より、中園孔二《無題》(2010)
展示風景より、左からリチャード・オードリッチ《untitled》(2016-2018)、服部しほり《鬼出づる》(2021)

 梅津は本展において、実際に特集内であつかわれた作品を集め、展示する意義について次のように語る。「もともと、誌面を制作するなかで、実際に展示を行うことを想定はしていた。誌面では伝わらない絵画の物質性や画材の質感をとらえられるはず」。

 会場では梅津の作品も多数展示されている。過去作品に展覧会の開場直前まで加筆を加えた《ヌーディストビーチ》(2007/2021)や、真珠湾攻撃で命を落とした大叔父を物語るように制作した立体作品「パームツリー」シリーズ(2020)などからは、誌面や展示の監修者としてではなく、ひとりの作家として梅津がいかに美術と向かい合ってきたのかを垣間見ることができるだろう。

展示風景より、右が梅津庸一《ヌーディストビーチ》(2007/2021)
展示風景より、梅津庸一「パームツリー」シリーズ(2020)

 また、展覧会という形式の意義について、梅津は次のように語っている。「誌面に絵画の図像を集めて掲載することは、許諾等の問題をクリアすれば実現できる。しかし、交渉しながら実作品を集め、こうして一堂に展示するということは、それをはるかに上回る物理的、精神的労苦がある。そういった営みも美術においては重要な要素だ。とくに新型コロナによってオンラインでの展覧会開催が増えるなか、本展覧会は改めて実物を集めて展示することの意味を改めて問うことにもつながるはずだ」。

展示風景より、左から時計回りに梅沢和木《NEW SKIN!》、しー没《サイバーねむの木》(2020)、《APEND GOTTAMIX》(2021)、若松光一郎《Autonomy》(1979)
「絵画の見かた reprise」展示風景より、右が塩川高敏《浮遊》(2013)

 本展は『美術手帖』を副読本としているが、3フロアにわたる展示は特集内容に沿って構成されているわけではない。したがって、特集内容から離れて鑑賞者一人ひとりが絵画と対峙することで、自分なりのつながりや見かたを見出すことも可能だ。「自分にとって良い絵とは何か?」という「絵画の見かた」特集の副題をなぞるように、訪れた観客が多様な作品を通じて、絵画とは何かを問いかけることができる展覧会となっている。

展示風景より、左から島田章三《初冬》(1975)、kishi yuma《告白》(2021)
「絵画の見かた reprise」展示風景
展示風景より、左から高松ヨク《grl in the darkness》(2003)、《night train》(2012)、《月のクルーズ》(2015)