東京でも有数の歓楽街である六本木。その中心部に、新たなアートコンプレックスが誕生した。
「ANB Tokyo」は、アーティスト支援やコミニティー形成などを通じた新たなエコシステムの醸成を目的に、昨年設立された一般財団法人東京アートアクセラレーションが運営する施設。同財団の代表理事はモバイルゲーム事業を展開するアカツキの共同創業者である香田哲朗、共同代表は元水戸芸術館現代美術センター学芸員の山峰潤也が務めている。
元カラオケ店のビルをほぼ丸ごとリノベーションしたANB Tokyo。2階から7階までの6層のなかにラウンジや展示スペース、スタジオなどが入る、都心部においては稀有な規模の施設だ。
このANB Tokyoのオープニングを飾るのは、「ENCOUNTERS」展。予期せぬ「遭遇」から生まれる新しい創造をテーマにした本展は、石毛健太、丹原健翔、西田編集長、布施琳太郎、吉田山、Tokyo Photographic Researchがキュレーションを担当し、4つの小展覧会によって構成されている。会場はANB Tokyoの3階、4階、6階、7階。
「NIGHTLIFE」と題した3階は、西田編集長がキュレーションを担い、Houxo QueとMESの2組がコラボレーションを見せる。「夜の街」と称されることも多い六本木の街。本展の中心部には、1988年に六本木のディスコ「トゥーリア」で発生した照明装置落下事故をテーマにしたインスタレーションが展開される。新型コロナウイルスの影響により「夜の街」を取り巻く状況が大きく変わるなか、Houxo QueとMESがそれぞれ経験してきたナイトライフが、展示空間で織り混ざる。
4階の「楕円のつくり方」は、吉田山と布施琳太郎によるキュレーション。「楕円を描くには起点が2つ必要。キュレーションという『選ぶ行為』を考えたときも、真円のように強力なひとつの中心がある構造を再考する必要があるのではないか」というふたりの意識のもと、展覧会はつくりあげられており、「2つの起点」はその構造に巧みに組み込まれている。参加作家は長島有里枝、やんツー、NAZE、スクリプカリウ落合安奈、マーサ・ナカムラ、松田将英。
6階は、六本木に自生する植物を展示室内に持ち込むことで、都市の表皮を反転させ、都市に群生する人間を重ね合わせる「And yet we continue to breathe.」。石毛健太と丹原健翔がキュレーションし、石毛と丹原のほかに喜多村みか、郷治竜之介、林千歩、山形一生が参加している。
続く7階は、写真の機能や概念を拡張させながら、2020年代の東京を多面的に解釈するプロジェクト「TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH」がキュレーションする「SOURCE/ADIT: Studio TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH」。「ENCOUNTERS」展のなかでももっとも多い11名が参加するこのセクションでは、写真家や建築家、音楽家など様々な視点を源泉に、それぞれが持つ考え方や方法論が色濃く表現されている作品を通して、アーティストが共働しながら模索する「場」を立ち上げる。
複数のキュレーターを迎え、複数の展示で構成された今回の「ENCOUNTERS」展。この多様な才能が集まる場を企画した山峰は、今後のANB Tokyoの展望について、次のように語る。
「今回の展覧会は、自分たちがありたいかたちを実際にやってみせる、ということが重要でした。ANB Tokyoは僕がキュレーションしていくような場所ではなく、プラットフォームのような場所でありたいと思っています。人が集まることでここでしかできない経験をどう持ち帰ってもらうかが大事なので、挑戦的な企画を持ち込んでもらいたいし、できるだけ協力していきたい。若手作家のキャリアアップもそうですが、中堅作家のキャリアシフトの機会にも役立てたいですね。僕は話し合いながら立ち上がってくるものの力を信じていますし、『個』ではなく『面』でエスタブリッシュされることで生まれるパワーがあると思うのです。大きなうねりが生まれたときに、アート(界)のなかだけでなく外からも『アートがいま面白いよね』と言われて輪が広がっていかないと、生きていけない。上の世代が抜けていくなか、どうやって新しい自分をつくっていくかを考える場になっていければ」。