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京都市京セラ美術館がついに開館。こけら落としの「杉本博司 瑠璃の浄土」に注目

2017年から大規模改修を行ってきた京都市美術館が、京都市京セラ美術館としてついに開館を迎える。こけら落とし展の様子とともに、その内部をレポートする。

京都市京セラ美術館外観 撮影=来田猛

 4月4日(*)、待望の美術館がついに開館を迎える。2017年から大規模なリニューアルを進めてきた京都市京セラ美術館(京都市美術館)だ。

 景勝地である岡崎公園内に位置する同館は、公立美術館としては上野の東京都美術館に次ぐ日本で二番目の公立美術館(1933年開館)。大規模改修に伴いネーミングライツを導入し、19年から呼称は「京都市京セラ美術館」となった。

京都市京セラ美術館

 洋風建築に和風の屋根をかぶせた、和洋折衷のいわゆる「帝冠様式」を代表する建築として知られるこの美術館。80年以上の時を経ていま、建築家・青木淳らの手によって生まれ変わった。

>>大規模リニューアルの建築詳細についてはこちら

 大きく開けたエントランスや、意匠をできるかぎり残したまま設備機能を大幅にアップデートした本館、そして新館となる東山キューブなど、これまでの重厚な雰囲気を上手く活かした京都市京セラ美術館。そのこけら落としとなるのが、3部構成となる開館記念展「京都の美術 250年の夢」(~12月6日)と「杉本博司 瑠璃の浄土」(~6月14日)だ。

新設されたスロープ状の「京セラスクエア」 撮影=来田猛

京都市美の歴史伝える本館

 まず本館では、同館のコレクションの核である「京都の美術」を全国から集めて展示する「京都の美術 250年の夢」の第1部が開催。

 本展では、「最初の一歩:コレクションの原点」として、京都市美術館開館3年目(1935年)の春に初めて開催された「本館所蔵品陳列」に出品された、コレクションの原点である47点を一挙に公開。また、京都市美術館の歴史を振り返る図録や、建築図面など貴重な資料も展示している。

「京都の美術 250年の夢」展示風景より
「京都の美術 250年の夢」展示風景より

 同じ本館では、新設されたコレクションルームでも所蔵品を展示。絵画、彫刻、陶芸など1880年代年から2003年までに制作された約100点の作品を公開。あわせて、80年前の京都市美術館の図面や、過去の図録など、開館当時を振り返る資料も見ることができる。

コレクションルーム展示風景

 なお本館は、国の登録有形文化財になることが決まっており、その意匠が楽しめるのも大きなポイントだ。

本館内部
本館内部
本館内部
本館内部

新館で新たな歴史を刻む

 こうした長い歴史を感じさせる本館から一転、新たな歴史を刻む新館では、これまでにない現代美術の展覧会を見ることができる。新館「東山キューブ」の幕開けを飾るのは、「杉本博司 瑠璃の浄土」だ。

新館のエントランス

 杉本は本展において、京都市京セラ美術館がある岡崎の地にかつて6つの大寺院が存在していた史実から着想を得て、「仮想の御寺の荘厳」を構想。 「瑠璃」「浄土」「偏光色」をキーワードに、「浄土を追求してきた日本人の心の在り様」を見つめ直すことを目指したという。

展示室入り口には小田原文化財団の幕がかかる

 展示室は、世界各地の「海景」を封じ込めた「光学硝子五輪塔」の参道から始まる。仏教教典のなかで、世界の構成要素である五大要素(地水火風空)を抽象化し、発展したという五輪塔のかたち。これが13基も一列に並ぶ様は圧巻だ。

展示風景より、「光学硝子五輪塔」シリーズ (C)Hiroshi Sugimoto
展示風景より、《光学硝子五輪塔 カリブ海、ジャマイカ》(2011/1980、小田原文化財団蔵)  (C)Hiroshi Sugimoto
展示風景より、光学硝子の破片を集めた《瑠璃の箱(無色)》(2009-2020) (C)Hiroshi Sugimoto

 これを抜けた先には、世界初公開となる大判のカラー作品シリーズ「OPTICKS」がある。杉本が初めて「色そのもの」を撮影したこのシリーズは、プリズムに朝の光を通して分光させた「光の階調」を撮影したもの。ポラロイドで撮影し、一部デジタル技術を加えてから、さらに大型プリントで印刷するというアナログとデジタルが混在した作品だ。

展示風景より、「OPTICKS」シリーズ (C)Hiroshi Sugimoto

 ニュートンは、太陽光が7色から構成されていることを発見した。しかし杉本は、このニュートンによる7色のあいだにも光はあると考え、無限とも言える色彩の階調を作品化。11点の大判作品で、その色彩を堪能してほしい。

展示風景より、《OPTICKS 238》、《OPTICKS 158》、《OPTICKS 051》(いずれも2018)  (C)Hiroshi Sugimoto
新館へと続く廊下には杉本の新作《アイザック・ニュートン式スペクトル観測装置》(2020)が置かれ、実際に光のスペクトルを見ることができる (C)Hiroshi Sugimoto

 本展では、京都ならではの作品も重要な要素となる。杉本を代表する「仏の海」シリーズは、京都・三十三間堂の千体仏を撮影した作品。撮影許可まで7年かかったという本作は、杉本の「平安末期の人々が見た三十三間堂の姿を見てみたい」という思いから生まれたものだ。早朝の東山の朝日を受けた仏像の姿をとらえており、本展では18点が展示されている。

展示風景より、「仏の海」シリーズ(1905)と極楽寺鉄灯籠(1601)  (C)Hiroshi Sugimoto

 これに加え、三十三間堂の中尊を写した3枚組の大作も展示。これは世界初公開となる。仄暗い室内は、隣接する「OPTICKS」と明確なコントラストをなす。

展示風景より、中央が《仏の海(中尊)》(1995)  (C)Hiroshi Sugimoto

 このほか、杉本が収集した考古遺物などを並べた「宝物殿」では、かつて岡崎にあった6つの大寺院のうちのひとつである法勝寺の瓦などを、杉本作の硝子茶碗などとともに陳列している。

手前が《法勝寺 瓦》(平安時代) 小田原文化財団蔵
「宝物殿」の展示風景  (C)Hiroshi Sugimoto 
《護王神社模型:アプロプリエート・プロポーション》(2003、小田原文化財団蔵)と「海景」シリーズ (C)Hiroshi Sugimoto

 加えて見逃せないのが、東山キューブに隣接する日本庭園に設置された《硝子の茶室 聞鳥庵》(2014)だ。ヴェネチア、ヴェルサイユとふたつの都市で展示されてきた本作は、今回が日本初公開。茶室までの通路となる橋には、江之浦測候所の光学硝子舞台と同じ素材の光学硝子が使用されており、本展のために制作された。なお本作は、「瑠璃の浄土」展終了後も引き続き展示される予定だ。

硝子の茶室 聞鳥庵 2014   ペンタグラム財団蔵 Originally commissioned for LE STANZE DEL VERTO, Venice / Courtesy of Pentagram Stiftung & LE STANZE DEL VERTO. (C)Hiroshi Sugimoto

 開館から80年以上の時を経て、大きく生まれ変わった京都市京セラ美術館。本館と新館を巧みに使い分け、新たな時代を刻もうとする姿勢が開館記念展からは垣間見られる。なお、新館では今後、「THE ドラえもん展 KYOTO 2020」(7月4日〜8月30日)、「ANDY WARHOL KYOTO/アンディ・ウォーホル・キョウト」(9月19日〜2012年1月3日)、「平成の美術 1989-2019(仮称)」(2021年1月23日〜4月11日)などを予定。これからの展開にも期待したい。

*──開館日は4月11日に延期された

編集部

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