展覧会を独立したひとつの生命体ととらえる──そんなこれまでの日本にはない芸術祭が、岡山市で開幕した。
「岡山芸術交流」は、石川文化振興財団理事長でストライプインターナショナルの代表取締役社長を務める石川康晴が総合プロデューサーを、TARO NASUオーナーの那須太郎が総合ディレクターを担うもので、2016年に初回が開催された。
前回はアーティスティックディレクターにリアム・ギリックを迎え、「開発 Development」をテーマに31組のアーティストが参加した岡山芸術交流。2回目となる今年は、「IF THE SNAKE もし蛇が」をタイトルに掲げ、フランス人アーティストとして世界的に活躍するピエール・ユイグがアーティスティックディレクターを務める。
今年は世界9ヶ国から18組のアーティストが参加。総出品点数は約40点で、その半数以上が新作となっている。会場は、旧内山下小学校、旧福岡醤油建物、岡山県天神山文化プラザ、岡山市立オリエント美術館、岡山城、シネマ・クレール丸の内、林原美術館ほかなど徒歩圏内だ。
当初、「超個体(スーパーオーガニズム)」という言葉を使い、アーティスト同士、あるいは作品同士が関係しあうことを目指すとしていたユイグ。そのコンセプトは、現実のものとして会場に現れた。参加作家たちはユイグに同調するように、それぞれが自分の作品のみで閉じるのではなく、何かしらと影響しあう、またはそれ自体が変化し続けることを試みている。
例えばメイン会場である旧内山下小学校では、パメラ・ローゼンクランツがプールをピンクに仕立てた《皮膜のプール(オロモム)》(2019)を制作。ローゼンクランツはピンクの液体に含まれる物質を造語である「オロモム」と呼ぶ。標準化されたヨーロッパ人の肌の色をストックとして再合成し、物理的に精神的にも変化し続けてきた「人間」という存在についての考察を促す。
また同じ会場では、ユイグ自身が新作映像(タイトル未定)を屋外で展示。抽象画のような映像は、被験者にの脳内活動をfMRIスキャンでとらえ、それを深層ニューラルネットワークで再構成したものが次々と形を変えながら表示されていく。
なおユイグは、マシュー・バーニーとともに新作(タイトルは未定)を制作。バーニーがエッチングを施した銅板を入れた電気めっきタンクと、サンゴなどの生き物を入れた水槽が対話するように同じ部屋に展示され、会期終了後に銅版がユイグの水槽へと移される。
旧内山下小学校では、体育館を会場にした大規模なコラボレーションにも注目したい。
音とパフォーマンスによる作品を手がけるタレク・アトウィは、数年かけて世界中の楽器メーカーの協力とともに制作してきた独自の楽器を、初めてひとつのコンポジションとしてインスタレーション《ワイルドなシンセ》(2019)に仕立てた。大小様々な規模の楽器がそれぞれに音を奏で、連なり、影響しあう。
またフェルナンド・オルテガは、《ワイルドなシンセ》の上部空間に誘蛾灯を作品にした《無題》(2003)を設置。「虫たちの生と死、死を迎える瞬間に焦点を当て、それへのリスペクトを表現した」という本作は、虫が誘蛾灯に衝突する=死を迎えると、《ワイルドなシンセ》を照らす照明全体が一時的に消灯するという仕掛けだ。このタイミングは偶然性に依拠するものであり、オルテガはこの偶然性も重要だと語る。「なにかを待つ体験をじっくり考えてほしい」。
林原美術館では、2018年にサーペンタイン・ギャラリーで個展を行った若手作家イアン・チェンの映像作品《BOB(信念の容れ物)》(2018-19)を見ることができる。人工的につくられた事物が異種混合的に絡み合う映像作品を手がけるチェンは、様々な要素によって構成されている「BOB」という人工生命体を生み出した。生命をかたちづくる輪郭線はどこにあるのか?という問いからつくられたBOBは、人間の「欲望」と「信念」の関係性によって揺れ動く存在。鑑賞者もBOBのサイトからアプリケーションをダウンロードすることで、BOBに影響をおよぼすことができるという。
岡山県天神山文化プラザで展示されているエティエンヌ・シャンボーとミカ・タジマの作品は、建築を通して人間の身体に訴えかけるものとなった。
シャンボーは人工的な柱に人体と同じ体温を与え、地面には白い骨粉が星座のように散りばめられている。またタジマは体のツボの位置に沿って配置させた《フォース・タッチ(からだ)》(2019)から空気を噴出させることで、身体と装置の関係性やエネルギーの流れを示す。
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本展に散らばる、「新しい生命とテクノロジー」や「見えるものと見えないものの関係」「時間の概念」「流動性」「独立しながらつながっている」といったキーワード。那須太郎は、「ユイグがやろうとしていることはアートの定義そのものを変える可能性ある」と語る。
会期は11月24日までの約2ヶ月間。まるでひとつの作品のようにつながったユイグと参加アーティストたち。これまでにない試みをぜひ現地で目撃してほしい。